産前産後のからだの悩みで、とても多いのがこれです。

  • 「出産で骨盤がゆがんだ気がする」

  • 「骨盤矯正しないと一生戻らないのでは?」

  • 「腰が痛い。これって骨盤のせい?」

先日、X(旧Twitter)でバズっていた整形外科医の投稿(2026年1月8日投稿)に並んでいた文献群を、“その論文が実際に何を示しているか”という視点&著者含め整形外科の素人目線で見直してみました。すると、見えてくる結論はかなりはっきりしました。

まず前提:「骨盤=岩のような輪っか」、大きくは動かない構造

骨盤(骨盤輪)は、左右の寛骨+仙骨でできた“輪”。輪っか構造は、強い靭帯でがっちり固定されています。仙腸関節(骨盤のうしろ側の関節)は、動くとしてもとても小さい(㎜単位)範囲しか動きません。これは仙腸関節の生体力学レビューでも繰り返し説明されます。

さらに、精密計測(放射線画像を用いた高精度解析)では、仙腸関節の動きは小さく、検出が難しいほどという報告があります。

妊娠・出産で起きるのは「一時的な”ゆるみ”とわずかな”開き”」

恥骨結合(骨盤の前側)は妊娠〜出産期に数mm程度の生理的な拡大が起きうる、そして多くは産後数か月で元の幅に戻る、という整理が実務的ガイドラインで示されています(近年の超音波研究でも、妊娠後期に幅が増え、産後に低下していく推移が観察されています)。

つまり、よくある不安のかたち、
「骨盤がグニャっと“歪んだ位置”で固定され、外から押して元に戻さないといけない」
というイメージは、少なくとも骨盤輪の構造・可動性のデータとは噛み合いにくいのです。

「ぐいぐい押しても矯正できない」──“位置”は変わらない、が論文で示されている

これをストレートに示しているのがこの研究です。

  • 仙腸関節のマニピュレーション(いわゆる矯正)をしても、仙腸関節の位置は変わらなかった
    ──しかも、画像解析で検証しています。

この結果が意味するのは、少なくとも「骨盤(仙腸関節)がズレていて、それを外力で元に戻す」
という説明は、科学的にはかなり苦しい、ということのようです。

さらに厄介:「歪みを見つける検査」じたいが、当てになりにくい

“骨盤が歪んでいるかどうか”を、触って(触診・動きの触診)判断する場面は多いですよね。

でも、引用文献にはこうした検査の弱点を示すレビューが並んでいます。

  • PSIS(上後腸骨棘:骨盤の出っ張り)の触診の信頼性を扱った系統的レビュー

  • 仙腸関節の可動性を触って判定するテストの妥当性・信頼性を検討した系統的レビュー&メタ解析
  • **腰痛患者に対する手技的触診(manual palpation)**の信頼性・妥当性を批判的にまとめたレビュー

要するに、ここがポイントです。

「歪みを見つけた」と言われても、その“見つけ方”が再現しにくい可能性がある。

だから、“歪み”を追いかけるほど不安が強くなる人ほど、検査→矯正のループにはまりやすいみたいなのです。

けど、「施術で気持ちや身体がラクになる」──これはありそう(ただし理由が違う)

一方で、「矯正に行ったら楽になった」「前向きになれた」も、現実としてよく起きます。

脊椎マニピュレーション(手技療法)は、急性腰痛で小〜中程度の改善が示された系統的レビュー(JAMA)があり、一定の臨床効果は報告されています。

ただし、ここでだいじなのは、

  • 効果があるとしても、それは必ずしも**「骨盤の位置が戻った」**からではない

  • 体験としての安心、ケアされる感覚、痛みの感じ方の変化(神経系の調整)、休息の確保…などで説明できる

という点です。
そして同じレビュー論文では**有害事象(痛みの増悪など)**にも触れられており、少なくとも「強い力でグイグイ」が無条件におすすめとは言いにくいみたいです。

じゃあ腰が痛いのは何のせい?——“骨盤”より先に疑うべきは、授乳と抱っこ

産後の腰痛・背中痛・首肩痛は、姿勢と反復負荷で十分に説明できることが多いです。

  • 授乳中、赤ちゃんに口を近づけようとして親が前かがみになる

  • 抱っこで片側の腰に乗せる/片手で支え続ける

  • 立ち上がりやオムツ替えでねじり+前屈が増える

  • 睡眠不足で筋疲労が抜けない

実際、授乳姿勢と背中・首・腰の痛みの関連を調べた研究はあり、授乳中の姿勢が筋骨格系の痛みにつながりうることが報告されています。
授乳姿勢によって腰椎や骨盤の角度、脊柱起立筋活動が変わるという生体力学研究もあります。
また、授乳のエルゴノミクス(身体の使い方)指導で母親の筋骨格系トラブルが減ったという介入研究もあります。

抱っこ(乳児の運搬)についても、抱き方・体幹角度と負担の関係を扱う研究があります。これについては、今後しっかり説明していきましょう。
特に低月齢のうちは、左右対称で抱っこすると親の身体にはよさそうです(赤ちゃんにもいいです)。
お勧めはへこおびハグリーノ。左右対称で抱っこでき、抱きも降ろしも簡単にできます。特にハグリーノは使い方が簡単なので、腰痛がある方や不安な妊婦さんにはお勧めです。

今日からできる「骨盤の不安を減らす」授乳・抱っこフォーム5つ

パパにもできる“再現性の高い支援”としても有効です。

  1. 授乳は「胸を赤ちゃんへ」ではなく「赤ちゃんを胸へ」
    前かがみをやめ、赤ちゃんの高さをクッションで上げる。

  2. 椅子に座るときには足裏を床につける(足が浮くなら台を使う)
    骨盤が後ろに倒れて猫背になりやすいのを防ぎます。

  3. 背中は“反らない・丸めない”の中間(ラクな背骨)
    授乳クッション+背もたれで“保持”する。筋肉で支えない。

  4. 抱っこは「ねじらない」:方向転換はカラダごと
    腰だけで向きを変えない。オムツ替え台・ベッド周りの動線も整える。

  5. 片側抱っこの固定化を避ける(左右交代/道具を使う)
    片側荷重が続くと、痛みは“歪みっぽく”感じやすい。正面のコアラ抱っこが吉。

受診の目安(ここはガマンしないで受診!)

次がある場合は、「骨盤矯正」より先に医療者へ。

  • しびれ、筋力低下、排尿排便の異常

  • 発熱、強い安静時痛

  • 転倒など明確な外傷

  • 歩けないほどの痛み、痛みが急激に悪化

(恥骨結合離開など、まれに治療が必要なケースもあります。

まとめ:矯正に行く/行かないの前に、「痛みが生まれる姿勢」を潰すのが最短ルート

  • 骨盤輪は強固で、仙腸関節の動きは小さい。

  • 施術で“位置が戻る”タイプの説明は、画像解析研究と整合しにくい。

  • 「歪み」を触って判定する検査は、信頼性・妥当性に課題があるとするレビューがある。

  • 施術で楽になることはあり得る(気持ちが前向きになるのも含めて)。ただし“矯正できた”とは限らない。

  • だから結論はシンプル:授乳と抱っこの姿勢(=反復負荷)を見直すのが、痛みと不安を同時に減らす最短ルート。

ということになります。
でもね、痛いものは痛い。パートナーの方はまずママの気持ちを受け止めて、気持ちに寄り添ってくださいね。Xの整形外科の先生も書いていたように、骨盤矯正の回数チケットを購入する前に、ゆっくりお風呂に入る時間を確保したり、寝かしつけの抱っこを代わってあげてください。

授乳や抱っこに慣れてきたら、腰痛も治るかもしれませんから。

抱っこのご相談は抱っことおんぶに詳しい「北極しろくま堂」にお尋ねください。商品を使った抱っこだけでなく、素手の抱っこもアドバイスできます。

とりあえず、日本小児整形外科学会がお勧めしている「コアラ抱っこ」の動画をおいておきますね。

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引用文献

X投稿で挙げられていた9本は省略します。X投稿をご覧ください。

●補助文献(ブログ本文の理解を助けるために追加で参照したもの)

Vleeming A, Schuenke MD, Masi AT, Carreiro JE, Danneels L, Willard FH.
The sacroiliac joint: an overview of its anatomy, function and potential clinical implications. J Anat. 2012.
【注釈】仙腸関節(骨盤帯)の機能解剖・バイオメカニクスの総説。

Schmid S, Stauffer M, Jäger J, List R, Lorenzetti S.
Sling-based infant carrying affects lumbar and thoracic spine neuromechanics during standing and walking. Gait Posture. 2019;67:172–180.
【注釈】スリングでの前抱き/左右抱きで、腰椎前弯・胸椎後弯、体幹回旋、傍脊柱筋活動などが変化することを示している。

Havens KL, Severin AC, Bumpass DB, Mannen EM.
Infant carrying method impacts caregiver posture and loading during gait and item retrieval. Gait Posture. 2020;80:117–123. doi:10.1016/j.gaitpost.2020.05.013
【注釈】腕抱き/抱っこひも(structured carrier)などの方法で、歩行や物を拾う動作の姿勢・力学負荷が変化することを報告している。

Havens KL, Goldrod S, Mannen EM.
The Combined Influence of Infant Carrying Method and Motherhood on Gait Mechanics. Journal of Applied Biomechanics. 2023(オンライン先行)/ 2024(巻号表記での掲載年が異なる場合あり).
【注釈】母親(自分の赤ちゃん)と未産婦(マネキン)で、非荷重/腕抱き/抱っこひも条件の歩行力学を比較した研究。