『赤ちゃんの手とまなざし ことばを生み出す進化の道すじ』(竹下秀子著 岩波書店 2001年)を紐解いて,赤ちゃんの発達の仕組みをご紹介しています。前半部分では姿勢が発達することの意味を取り上げました。
この記事では手や指の発達が周囲とのコミュニケーションの発達にどう関係していくかをご紹介します。

前半では類人猿のなかでもヒトは仰向け姿勢になれることが他のサルと大きく違う点であることを紹介しました。仰向け寝になることで赤ちゃんは両手が自由に使え,物を取り扱う行為に向かうことができます。
なお,この記事では基本的に本に書かれていることをご紹介しています。それ以外の付け足し情報はグレーで表示しています。

物のとりあつかいと道具

物をつかむことができるようになると,ものを「置く」,「入れる」,「渡す」,ものとものを「くっつける」という動きを始めます。積み木の積み方をみた研究では(田中ら『子どもの発達と診断』全5巻 1981~1988)1歳半の子どもは①3つ以上積む②崩れても積み直す③崩れそうになることがわかって気持ちのこもった表情をするという特徴があるそうです。この行為の発達がその後の他の遊びや行動につながっていくのだそうです.

また,同じ時期から櫛で髪をといたり,スプーンでものをすくったりする遊びを始めるそう。これはその赤ちゃんが属している社会でよく行われている行為を真似して,身の回りにあるものを取り扱うようになるそうです。真似の始まりですね。もちろんはじめから上手にできるわけではありませんが,見たことのエッセンスがちゃんと入っているようなパターンができてきて,それを見た大人が「子どもが(自分の動きを)真似してる」とリアクションを返していくことで行為が循環していきます。

この子どもなりに「調整する」というのは興味深いですね。崩れそうな積み木を見るときの気持ちのこもった表情! 萌えます。真似することはヒトの重要な発達ポイント&特徴なので,ものが取り扱えるというのは大きな意味があるんですねー。

前半の姿勢発達(しがみつくとか寝返り,おすわりなどができるようになること)とものを取り扱う順番は,サルとヒトでは少し違うようです。サルは姿勢発達がすごく早く,手の発達はそうでもないそうです。一方ヒトは姿勢発達はサルに比べるとだいぶ時間がかかりますが,ものを取り扱う手の働きの発達は速く,多様であるということです。この手の働きの発達が,ことばを話せるようになることに重要な役割を果たすそうです。

物のとりあつかいとことば

先日,NHKのある番組を見ていたら,鳥にも言葉があることを紹介していました。ことばや会話は仲間と協力して行動するのに欠かせないスキルですね。その鳥たちは敵の襲来や餌のありかなどを教え合っているそうです。

ヒトの場合はだいたい1歳すぎからことばを発し始めます。物の名前を言えるようになる前には,そのものに特徴的な操作を行うことが確認されています(小林春美・佐々木正人『子どもたちの言語獲得』大修館書店 1997)。また,ボールという言葉を言えるようになる前にはボールのことを「ぽーん」と表現するなど,そのものがどういう動きをするかをことばにすることがあるそうです。

手のうごきによって周囲の世界とかかわるための発達がまずおこります。発話(ことばを話すこと)はそのような神経回路に発声器官(声を出すのどなど)が含まれるようになったことの現れなのだそうです(p88あたり)。周囲になにかを伝えるためには,ものの名前や動作を示すことばを発する必要があります。その他,動作で知らせる方法もありますが,それらを組み合わせるとより伝わります。さらに目の前にないもの(こと)を伝えるためには,言葉によってそれを表現し,伝え合うことが必要になり,ヒトはそれらができるようになりました。

生後1年目から2年目にかけて,ヒトは物によって環境世界とかかわり,この活動を通じてことばを獲得していく。

『赤ちゃんの手とまなざし ことばを生み出す進化の道すじ』(竹下秀子著 岩波書店 2001年)

赤ちゃんがものを扱うとき,最初はいろいろに触ります。その後11ヶ月頃からは,そのものに特徴的な扱いをするようになるそうです。さらにだんだんと複数のものを続けて触って同じことを繰り返して,ものとものを積み重ねるような行動をします(積み木重ねなど)。このようなものの扱い方の発展と同じように言葉も発達していくそうです。

ことばを生みだすもの

ヒトの赤ちゃんは生後2ヶ月ごろには自分から進んで見たいものを見ることができます,その後,生後4~5ヶ月の赤ちゃんは取りに行くことができる(移動できる)までの過渡期を迎えます。チンパンジーの赤ちゃんは自分でものをとることができない時期には,手になにかを持たされてもすぐに離してしまうそうですが,人間の赤ちゃんはそれを持ってもて遊ぶことができます。この「見る」行動の発達は発達に大きな意味があります。

手足の運動と声をだすこと

生後3ヶ月くらいになると,赤ちゃんはよく自分の足を持ち上げて足を合わせたりしていますよね。

4ヶ月頃になるとわらい声をだしますが,笑い声はこの足を上げて蹴る動作と関係があるそうです。5〜6ヶ月ごろになると,足蹴りのリズムと笑いの呼吸のリズムが合ってくるそうです! また,笑いは手の動きとも合ってくる。手の動きは喃語(赤ちゃんが話す”ヴァー”とか”おっくん”という特有のことば)ともリズムが合ってくる傾向があることが明らかにされています。
脚(足)の動きとことばの発声,手の動きが連動しているのですね。

まとめ

ヒトは母親にしがみつくという能力よりも,しがみつかなくてもやっていける方向に進化し,あおむけの姿勢が生後半年かけてゆっくりと発達することがわかりました。そのあおむけの姿勢で「見るー見られる」状態をつくり,視線を集めて構ってもらえるようになり,手をつかってものをつかみ,それをもて遊ぶ(探索)するようになりました。同時に,自分の手足を動かすことで身体を動かす練習を積み,そのうちにものを動かすこともできるようになります。それとともにことばを発展させている。
めちゃくちゃ端折りますが,ざっとこんな感じでしょうか。

このような発達の本を読むと,赤ちゃんに自由な運動をさせることは発達にとても重要であることがよくわかります。もちろん(なんども言いますが)ヒトには回復する力があるので,一時的に順序が逆になったり,制限がかかったりしてもほとんどは問題ありません。
抱っこやおんぶをすることは,赤ちゃんの生命維持にとって必要な場合もありますが(昔はそれで狩猟採集をしていたでしょう),必要以上にすることもないと感じます。無条件に抱っこをしていればよい子に育つわけではなく,抱っこやおんぶをするなら快適な安全な状態でして,必要がないときにはおろして赤ちゃんが自分の体を使える時間をちゃんと確保することが大事なのかなと思います。

北極しろくま堂では,赤ちゃんや子育てに関するさまざまな知見をしっかり理解し,親御さんと赤ちゃんの役に立つよう製品作りやアフターフォローに取り組んでいます。
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すべての親御さんに発達理解のための参考にしていただければ幸いです。