日本の伝統的な織物のひとつである「しじら織り」。北極しろくま堂では,このしじら織りを2002年からオリジナルで織り始めました。
軽くて,丈夫なしじら織りの物語りです。
既にキュットミー!やへこおびのしじら織りをご愛用いただいているみなさま、そして現在同商品のご購入を検討されているみなさまのご参考になれば幸いです。

しじら織りって

綾の糸使いによる名称。経(たていと)と緯(よこいと)の張りの不均衡によって、表面に凹凸が現れるようにしたもの。経に細く縮んだ生糸を用いて薄地とする。
[出典:日本国語大辞典第二版 (株)小学館]

「オーダーできるなら、スリングのためだけのしじらをつくりたい」
そんな店主の考えから生まれた、世界にたった一つしかない北極しろくま堂のしじら織りには、だっことおんぶの専門店ならではのこだわりがあります。

この記事,「しじらのはなし。」では、日本の三大織物産地のひとつとしてかぞえられている遠州(静岡県西部)で戦後すぐに創業した老舗織物屋の職人さんの手によって生まれる北極しろくま堂独自のしじら織りをご紹介します。

しじら織りとは

織物には、経(たていと)と緯(よこいと)があります。
経と緯が、たて、よこともに交互に1本ずつ交差しているものを「平織り」といいます。

しじら織りは経(たていと)が3本のところが2回、その次に1本ずつのところが6回あり、緯(よこいと)は3本のところは3本いっぺんに上下して、あとは一本ずつ上下にはいるようになっています。

平織りだけの生地では、しじら織りのように糸の伸縮性に差がないため生地がよれることなく平たくなりますから、それだけ人の肌にふれる面積も大きくなります。汗をかいたときなどに、肌にべたっとくっつく感覚が出やすくなりますね。
しじら織りは「しぼ」があるために平たい部分がすくなく、人の肌に触れる面積が平織りよりも少ないことから風通しがよくなり、とても涼しく感じるのです。それで、甚平や浴衣、夏の上かけなどによく使われています。

経(たていと)が3本ずつになっているところを「引揃え(ひきそろえ)」とよびます。
一本ずつのところは先に紹介した平織りです。
引揃えのところは、糸が3本一緒になっているため太く強くなっていて、平織りのところと比べると糸の伸縮性に差がでます。この伸縮性の違いによって、織物の引揃え部分には「よれ」ができます。これが「しぼ」とよばれるしじら織り最大の特徴です。

北極しろくま堂のこだわり

一般的にしじら織りは30番手という太さの糸一本を撚ったものだけで織られています。


わたしたちが「キュットミー! 」にしじら織りを使おうと決めた当初、職人さんにこんな相談をもちかけました。
「布は厚くしたくないけれど、強度はよりたかめたい」

さらに布の強度を高めるために、職人はこの60番手の糸を2本「よる」工程で、ふつうよりも強くねじり合わせる工程を加えました。

強くねじられた糸には凹凸がうまれ、肌に触れたときの質感が通常のしじら織りよりもよくなるという効果も出ました。

この「こだわり」の工程を加えたために一つ思ってもいなかったメリットがうまれました。
布に「つや」がでたのです。

同じ面積の中に織り込む糸の本数が多ければ多いほど、布は強くなります。
「60番手という、30番手の半分の太さの糸があるけど…。でもねえ…値がはりますよ。」

大切な赤ちゃんを抱っこするための布に、安全性以上に重要なことはありません。

このようにして決まった北極しろくま堂だけの「しじら織り」は、その糸に30番手の糸1本ではなく、60番手という30番手の半分の太さの糸2本が使われています。

30番手の糸一本をミクロの世界でみると、糸のまわりに繊維が出ていて毛羽立った状態になっています。60番手の糸を2本よることで、こうした目には見えない繊維も一緒にからませることになり、糸が「綺麗」になって織物全体につやがでたのですね。

こうした手間ひまが、北極しろくま堂オリジナルスリング「キュットミー!」や「へこおび」で抱かれる赤ちゃんの安全をまもり、快適な抱っこやおんぶの環境を提供しています。

無駄はだしたくない

北極しろくま堂が職人さんに相談したことがもう一つあります。
それは、「無駄をだしたくない」ということ。

職人さんが織っている一般的なしじら織りの仕上がり幅は110センチ。ところが、北極しろくま堂のスリングに必要な仕上がり幅は105センチ。110センチで織った生地でも使えるけれど、きりおとした布は無駄にしてしまうのか…
ならば、はじめから北極しろくま堂のスリングのためだけの幅で織りあがってほしい。
無駄がなく環境にもやさしい、「キュットミー!」だけの105センチ幅のしじらがこうして日々織られているのです。

織る

北極しろくま堂のしじら織りの行程


織り機の横に目をやると、そこにあったのは鮮やかに染めあがった「さくら」の糸。
大人の頭よりも大きな寸法の巻き糸になっていました。

撚糸(ねんし)屋でくるくるとよられた原糸は「精錬(せいれん)」「晒し(さらし)」という工程を通り、綿花から糸になる過程でついたよごれやあぶらがしっかり落とされてから、はじめて染めることができるそうです。


この紙は布の設計図です。
北極しろくま堂のしじら織りには3,552本の経(たていと)が使われています。

一番左端は薄い紫が1本、その隣にクリーム色が1本、その隣に薄いピンクが何本…と、指示書どおりに配列された経(たていと)は整経屋でドラムにまきつけられ、この工場へやってきます。

ドラムにまきついた3,552本の糸は、人の手によって一本ずつ織り機の針の穴に通されます。この気の遠くなりそうな作業を「経通し(せとおし)」といい、全てを通し終わるのに2日もかかるそう。
経緯そろったところで、やっと機織(はたおり)がはじまります

 

がしゃーん がしゃーん がしゃーん がしゃーん ……

工場全体を包む大きな音が一定のリズムを刻むなか、何万メートルとある一本の糸は一枚の織物へと生まれ変わってゆきます。

おわりに職人が見せてくれたのは、積み上げられたしじら織りの「きばた」。
さくら、水色、みるめ…鮮やかなしじら織りの緯(よこいと)がまるでモダンアートのよう。

「きばた」は最終工程である加工の工場に送られて,布としての完成品になります。最終加工では独特の「しぼ」をだすためにお湯で洗って乾燥させるという工程が施され、世界に一つしかない北極しろくま堂のしじら織りもいよいよ完成です。
仕上がったしじら織りは、その後「キュットミー!」や「へこおび」の縫製工場へと運びこまれます。

織物のこばなし

「やさしさ」

本特集 しじらのはなし。 では、これまでに北極しろくま堂のしじら織りにこめた店主のこだわりや織物の特徴、そして実際に織り上がる様子をご紹介してまいりました。
今回の取材を通してしじら織り職人から伺った数あるお話の中、SHIROKUMA mail編集部が最後まで気になっていた一節があります。

織物職人:
「いま使っている機械は革新織機っていうやつで、前はシャットル織機っていうのを使っていたんだ。

…革新織機よりも早い回転で織って大量生産する高速の織機は、糸をぴんとはらせた状態にしているから糸自体も強いけれど同時に痛むんだよね。そうなると出来上がる布が固い感じがするんだ。
糸にまるみがないっていうか…やさしさがない。極端にいうとはりがねを織っている感じだね。

…ある繊維業界の大手は、いままで高速の織り機を使っていたけれど布が売れなくなって全部古いシャットル織機に入れ替えたんだよ。全部で何百台だとおもうけど。革新織機の半分くらいの早さで織るからとても遅いんじゃないかな。
でも、こうした古くからある日本の織り機だと、糸にやさしさがのこるね。」

糸にやさしさが残るねー

わたしたちは、どこかやさしさのある糸で織られた布につつまれたいと思っている。
でもその「やさしさ」って、何だろう?

本特集最終回では、日本の織物の歴史をさかのぼりながら、それぞれの時代で赤ちゃんたちがどんな布や織物でどのように”Wear”されてきたのかを見てみたいと思います。

織物と赤ちゃんはきってもきれない関係。この世に生まれてすぐにわたしたちの肌が覚える感触は、お母さんのあたたかい手肌と同時に自分をつつむ布−織物です。
過去のBabywearingの様子から、人間の肌が求める「やさしさ」の原点がわかるかもしれません。


 

今日もわたしたちの赤ちゃんをやさしく包む北極しろくま堂オリジナルスリング『キュットミー!』のしじら織り。抱っこもおんぶもできる「へこおび」でも多数使われている、赤ちゃんに優しい生地です。
日本の三大織物産地の一つ、遠州の職人の手によって絶え間なく織られています。

しじら織りは浴衣や甚平によく使われていることから「涼しい」という印象が強く、冬には逆に暖かく感じることがあまり知られていません。
しじら織りは、その最大の特徴である「しぼ」によって布の表面には凹凸が生まれます。冬は、この織物の上に何か一枚羽織ることでこの凹凸の間に暖かい空気がたまりこれによって暖かく感じるのです。
是非お試しください。