前半の記事では人が生きていくためにはコミュニケーションが必要で,コミュニケーションを土台にした子育て・教育をするために祖母が必要とされていたこと。さらには子育ては一人ではできないので,昔の日本(江戸時代)はたくさんの「親」をつくって,みんなで子育てするような仕組みをつくっていたことを書きました。

ここからが,前半で紹介した『明治近代以来の法制度・社会制度にみる児童の養育責任論とその具体化に関する分析』(田澤薫・国際医療福祉大学講師:現在は聖学院大学人文学部教授)の詳しい内容です。

江戸時代の「オヤコ」関係

  • 血縁以外の「オヤコ」関係が豊かにみられた。
  • 例えば、取り上げ親、名付け親、拾い親((°0°)すごいね)、烏帽子親、鉄しょう親、仲人親、ワラジ親(どんなの?)、職親など。
  • 母親は産みの主体であり,養育の役割はあまり担わなかった。このような「女性は母としての役割をさほど期待されていなかった」ということは,女性史研究ではよく知られていること。
  • 江戸時代に女性教育の教科書的な存在だった「女大学」によると、子育てと家事全般は同程度のものと位置づけられ、女性(母親)が子育てに熱心に取り組むことを快しとしていない。
  • 生物学的親子関係を基調としながらも、共同体内に分散して児童の養育が担われていた。

例えば,親の種類のひとつである「乳付親」について、柳田國男の『産育習俗語集』(国書刊行会1975年発行. 1884年第4刷)に掲載されています。

チチヲツケル 讃岐の小豆島では出生すると最近に子を産んだ人を頼んで乳をつけて貰ふ。男の時は女の子の母の,女の時は男の子の母の乳をつけて貰ふのである。

柳田國男『産育習俗語集』(国書刊行会1975年発行)

産育習俗語集はさまざまな言葉を集めている本なので,乳つけについて他の地域の言葉(方言、意味するところ)も紹介されています。現代になるまでは初乳には毒があるという風に考えられていて,初めての乳は他の人のものを貰うということはよくあったようですね。この辺りは三砂ちづる先生のご研究などにありそう。

明治からおおむね戦前まで

  • 法制度が改められることによって、共同体的な養育関係から生物学的親子関係が分化していった。
  • 実親子関係とそうでない養育関係とを区別するようになった。
  • 同時期にキリスト宣教師などによって持ち込まれた家庭(ホーム)論の主張と流行があり、それにかぶさるように身分法が整備されていった。
  • 特に民法によって、共同体内で分散されていた養育が家に集約されるようになった。
  • 子どもの養育が「家」における女性の仕事とされ、養育に有能である=「家」での地位が高いと考えられるようになった。
  • わが子をよく養育することが、「家」内部でも社会的にも存在の有為性が確認できたので、わが子を優秀に育てることは母親の自己存在の充実につながった。

第二次世界大戦後

  • 新しい戸籍法などが整備されたことにより、「家」は解体され家族の単位は「核家族」となった。
  • 父母が養育に関する自己決定権を持つようになった。

以上が,この論文に書かれている事実です。
なんだか,たった100年の間に子育てや親のあり方についてずいぶん雰囲気も考え方も変わりましたね。

少子化の根本原因は責任の強調?

考察には,『少子化問題の根本原因のひとつは、児童の養育責任を(略)実父母に収斂させ、その生物学的不自然さを認識していない政府の施策にあることが、法・社会制度上の考察からほぼ明らかになった。』と力強く書かれています。

今や少子化は世界の先進諸国の大きな悩みです(アメリカを除く)。
女性が子育てすると授乳しやすいという利点もありますが,国がこの短い間に「母性」みたいなものに便乗して責任の所在を家族だけにまとめていって子育てしにくくしているような気がしてなりません。

そもそも人類は70万年という長い歴史のなかで,親子一対一で子育てするのって無理なように進化してきました。江戸時代の多様な「オヤコ」関係はそれを象徴していたし,責任や養育の一部分を分散することによってみんなで育てるという環境ができていたようです。しかし制度が変わることで,子育てを家族の中だけに閉じ込めてしまう雰囲気ができてしまった。
子育てはそんなに単純で少人数でできるものではないのに、他人のお手伝いは結構です! って殻を閉ざして親子だけの密室をつくってしまったのは現代の悲劇かもしれません。へんな事件が起きているのも理由にあるし,2020年から始まった新型コロナ感染症は家の中に再び親子を引きこもらせる要因になりました。
人間の赤ちゃんは親だけでは育てられないっていうのが、なが〜い歴史で証明されています。周囲の援助が必要なのです。

まとめ

おかしな事件がおこり、さまざまな思考を持つ人もいるので、社会全体で見守りましょう,育てましょう! とはなかなか言いづらい雰囲気にはなっています。でも子どもの幸福のためにはたくさんの友達や大人とかかわるように育てていったほうが、子どもの、ひいては日本の将来のためではないかと思います。
それに女性は家庭で家事・子育てをするべき! などという考えは,つい最近作られたものだということがわかりました。上記の法制度の流れで見てきたように、国が国民の意識を(法律を使って)婉曲に変えていくということもあるでしょう。でも、その逆もできるはずです。

今は感染症によりたくさんの方に実際に子育てにかかわってもらうことが難しくなっていますが,せめてあたたかい気持ちで見守っていただければと思います。

北極しろくま堂では,科学的な知見をしっかりと理解し,親子にとって役に立つよい抱っこひも・おんぶ紐を提供するよう日々努力しています。「こんなことが知りたい」などのご要望がありましたら,LINE(@babywearing)やお問い合わせ,当ブログのコメント欄を通じてお寄せいただければ幸いです。