抱っこに関心を持って20年以上。抱っこの仕方を観察し、抱っこやおんぶを研究しています(詳しくは下段の著者欄にて)。抱っこによって腱鞘炎や腰痛になる方がいらっしゃいます。この記事では特に腱鞘炎について解説します。腰痛についてはこちらの記事で解説しています。

出産した病院などでは沐浴の仕方やおむつの替え方、場合によっては人工乳の調乳方法等は教えてくれるのですが、抱っこの仕方を改めて教えてくれるところは意外に少ないのです。ですから見よう見まねで「こんな感じ?」と思いながら抱っこしているママは多いはず。でも大丈夫、そんな不安を持っている人はあなただけではありません。
生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしたことがないママはたくさんいます。初めて抱いた赤ちゃんが自分の赤ちゃんだったというママも多いのです。

腱鞘炎予防のためには、体全体を使って抱く

だいじょうぶ、だいじょうぶ。難しくないですよ。
腱鞘炎になるママは手首で支えていることが多いようです。お尻を手首で支えていたら要注意。下の動画では腕の回し方をよく見て参考にして下さいね。

首がすわっていなくても縦方向の抱きで大丈夫

日本小児整形外科学会(小児股関節研究会)では、赤ちゃんの抱き方を『コアラ抱っこ』にするように指導しています。
首がすわっていなくても縦抱っこにしてもよいですが、股関節の開き方が重要です。上から押さえつけたりせず、親の肘の内側から手首まで使って、赤ちゃんの膝から膝までカバーします。腱鞘炎になるのは、赤ちゃんのお尻(体重)をてのひらで支えてしまうから。腕全体で支えましょう。腕全体を使って抱っこすると、背中の筋肉も使って抱っこできます。

赤ちゃんの頭はぐらぐらするので、てのひらを大きく開いて支えるか、自分の体に寄り添わせます。
少しだけ上を向きたい子、左右のどちらかを(45°程度)向きたい子などいると思いますが、そのときにはそれを優先して、赤ちゃんが向きたい方向でしっかり支えてあげてください。

お腹の一部だけをくっつけて、天井が見えるような抱っこは赤ちゃんも怖がるのでやめたほうがいいでしょう。赤ちゃんも落下しそうだということがわかっているので背中に力が入ります。

コアラ抱っこの提唱者、石田勝正先生の記事はこちら

横抱きは腕を浮き輪のように丸くする

横抱きをしたい時には股のあいだに腕を差し込むよりも、腕全体で浮き輪のような○をつくって、そこに赤ちゃんがすぽっと入るようにすると腱鞘炎予防になり、赤ちゃんの股関節を締め付けません。浮き輪が親の腕だとイメージしてください。

このときに手首をクロスして手首から上を使わないようにすると背中の筋肉を引き出しながら抱っこするので、更に体に負担がかかりにくくなります。抱っこがたいへんなのは腕の力だけで重さを支えようとするからです。腕でカタチをつくって体全体で支えると負担が分散して楽に抱けるようになりますよ。

抱っこの基本(やり方を忘れたら)

赤ちゃんのだっこと言っても特別なものではありません。あなた自身が赤ちゃんになったとして誰かに抱っこされている状態を想像してみましょう。

体をねじらないようにしましょう

おむつのところ(股)に腕を差し込んで抱っこする方は非常に多いです。この抱っこをされた赤ちゃんの様子をよく見ると、赤ちゃんの体は必ずといっていいほどねじれています。毎日左右を替えて抱いていればまだ良いのですが、たいていは癖や利き手によって抱く方向が決まってしまうので、赤ちゃんもいつも同じ方向を向きます。こうして数ヶ月経つとどちらか一方ばかりを見てしまう「向き癖」につながりやすくなります。

左右対称にしましょう

ママの腕で浮き輪の状態をつくって、そこに赤ちゃんのお尻がすっぽりとはまるような姿勢は赤ちゃんにとっても気持ちのよい姿勢になります。つまり背中は緩やかにカーブしてお尻が下がり、開脚し、膝が持ち上がっている姿勢です。大人もプールに大きな浮き輪を浮かべてそこにお尻をすぽっと入れてゆったりしたら気持ち良いですよね。それと同じです。この状態だと赤ちゃんの体をねじったり、膝をママの体で押してしまうこともないので赤ちゃんが快適に過ごすことができます。

しかし、このままでは親は非常に動きにくく赤ちゃんもそのうち嫌がります。首がすわっていないから頭を横たえていなければならないということはありません。浮き輪に入っているようなCカーブM字開脚の状態を縦方向の抱き方でも支えられていれば十分安全です。それがコアラ抱っこなのです。

Cervical paraspinal EMG activity, while not signif- icantly different from the prone condition for the in-arms, baby carrier and supine conditions.

Siddicky et al., 2020, Positioning and baby devices impact infant spinal muscle activity Journal of Biomechanics 104(2020)109741

2020年に発表された論文には、『くび(頸部傍脊柱筋)の筋活動は、腕の抱っこ、ベビーキャリア(縦抱き)を使った時、仰向けで寝かせたときの状態は、うつ伏せ寝とあまり差がなかった。』と書かれてます。この詳細については、こちらの記事でまとめています。

まとめ

まとめると、新生児ちゃんを抱っこするには以下の点を注意して抱っこすると快適になります。
・赤ちゃんは頭が安定して寄り添っていれば縦抱きでも横抱きでも大丈夫
・横抱きする時にはおまたに腕を差し込まない方が良い
・手首から手の平は縦抱っこで頭を支える以外は使わない。主役は腕
赤ちゃんはママやパパの体にくっついていればいるほど安心しますから、ぜひ密着した抱っこをしてみてくださいね。

とはいえ、素手の抱っこはだいぶ疲れますから、抱きおろしが簡単な北極しろくま堂のスリング「キュット ミー!」や新生児から使える抱っこ紐「ハグリーノ」をぜひ使ってみてください!

この記事は2014年12月17日に公開したものに、加筆修正しました。