抱っこやおんぶには赤ちゃんの成長に欠かせないメリットがあることをご存じですか? 愛情が伝わるとか泣き止ませることができる,など思いつくものでもいくつもあります。もちろんデメリットもあります。
できるだけ多くのメリットを活かし、せっかくの労力がデメリットにならないようにしましょう。
韓国では2~3歳の子が抱っこばかりせがむことを「抱っこ病」と呼ぶそうです。「病」と言われるとだいぶマイナスイメージになりますが、この時期に抱っこをせがむのには意味があるのです。むしろ、抱っこをせがまいない方が愛着の状態としては心配かもしれません…。
また抱っこやおんぶは赤ちゃんが自由に自分の体を探索し、自由に動く時間を奪っています。
求められている時には抱っこ・おんぶして、おろせるときには自由にさせてあげる「塩梅」が重要です。
抱っこのメリット・デメリット
抱っこのメリット
赤ちゃんのお顔を確認しながらあやせることでしょうか。抱っこはメリット云々言わなくても抱っこせざるを得ない状況がたくさんありますよね。
素手の抱っこでも脚をしっかり開脚させて、身体をぴったりくっつけてあげると安心して泣き止む赤ちゃんが多いです(*1)。首がすわっていなくても密着して頭部をちゃんと支えれば縦方向で抱っこできますので、無理に横抱きを続けなくとも大丈夫ですよ。
首が座らないので横抱きにするというのはたぶん日本の都市伝説だと思われます。1985年前後に急に言われるようになりました。縦方向の抱きが赤ちゃんの身体に著しく影響があるなら、人類は滅亡しているでしょう。首がすわらないあいだは、赤ちゃんの頭部をしっかり支えてあげてください。
最近の研究結果でも、仰向け寝と縦方向の抱きで頸部の筋肉の負荷はほとんど変わらないという結果が出ています(*2)。
抱っこ紐を選ぶ時にもスリングやへこおびのようなできるだけ赤ちゃんと密着できる抱っこ紐を選ぶとよいでしょう。
特にスリングは首すわりした後には腰骨の上にまたがせるようにして抱っこすることができます。この体勢は子どもが親の顔や周りの状況を見ながら過ごすことができます。言葉や社会性の発達に重要な状態だと考えられています(詳細はこちらの記事をどうぞ)。「スリングは私たちを人間にした」(*3)と言われるくらいなのです。
抱っこのデメリット
抱っこのデメリットとしては、特に首がすわらないうちは頭部を支える必要があるために、両手がふさがってしまうことです。またお尻を掌(てのひら)で支え続けていると腱鞘炎になりがちです。
赤ちゃんを抱っこした姿を鏡で見るとつい赤ちゃんに目が向きますが、ご自身の立ち姿勢をみてください。片方の肩が上がっていませんか。掌で支え持とうとしていませんか。もっとラクに身体の力を抜いてみましょう。抱く人が緊張していると、その緊張が赤ちゃんにも伝わります。赤ちゃんはとても賢いのです。
赤ちゃんを運搬するために作られた抱っこ紐は密着しない構造が多いのですが、落下を防止するために複数のベルトやバックルがついています。毎回のことになるとけっこう面倒になってベルトを適正に使わない方が多いのですが、危ないので全てのベルトをしっかりしめて調整しましょう。
19世紀の初め頃に発売された「こども」(1808)というタイトルのドイツの育児書には、姿勢が悪くなるので抱かないように書かれています。
西洋では中世から親が子を育てずに、農家などに預けて育ててもらうという風習がありました。レ・ミゼラブルでも、主人公のお母さんは働くために農家に子どもを預けていますね。預けられ先でも、抱っこするのは動物のようだからという理由でNGであり、ハイハイもさせない、なるべく接触しないという考えが根付いていました。(そのため、たくさんの赤ちゃんが亡くなります)
抱きあげるか否かに限らず、人は触れられないと人間らしく育たないということは、これまでの残念な不幸な歴史で証明されています。詳細を知りたいかたは「子どもの「脳」は肌にある/山口創/光文社/2004」などを読んでみてください。こちらの記事に山口先生との対談が出ています。
おんぶのメリット・デメリット
おんぶのメリット
両手があく! まずはこれじゃないでしょうか。夕ご飯作りたいのに、掃除機かけたいのになかなか進まないとイライラしてしまいます。
上手に高い位置でおんぶができると、そのままトイレに行けるのも嬉しいです。
赤ちゃんとおんぶする人が同じものをみて世界を共有できることも、赤ちゃんの心の発達にはとてもプラスに働きます。
高い位置でおんぶができるのは、日本の昔ながらのおんぶ紐やへこおびです。ベビーラップは一部のおぶい方なら高い位置のおんぶができます。
ベビーラップはもともと長時間の労働や移動のためにおこなわれてきた手技なので、短い時間のおんぶやぐずったら他の対応をするなどの時には不向きです。でも2時間くらいの長時間のおんぶは身体がラクです。どちらかというと大きな子(2歳、3歳、それ以上)のおんぶには最適だと思います。
おんぶのデメリット
腰ベルト付きの抱っこ紐でおんぶをする場合、低い位置でおんぶされている場合は落下しやすくなる、お子さんが進行方向を見づらいということがあります。ママの背中しか見えなければなにをしているかわからないので、子どもは左右のどちらかを向いているしかありません。その時間がもったいないと思います。
こちらの記事も参考にしてください。→おんぶするなら「昔ながらのおんぶ紐」にするべき3つの理由
また、昔ながらのおんぶひもでも位置が低くなったり体重分散がうまくいかない場合は肩や腰に負担がかかります。北極しろくま堂ではLINEでご相談を受けておりますので(人力ですよ〜!)、ぜひご相談くださいませ。洗面所などの鏡をつかってお写真を撮っていただくと、より具体的に改善点などのアドバイスができます。LINEは@babywearingで検索してみてくださいね。
まとめ
○○をしていれば必ずよい成長ができる! などと指導する方からはじりじりと遠ざかりましょう。Noboby's a Perfect Momプロジェクトでも言われているように、必ずとか絶対はないです。完璧なものがないように、完璧な抱っこ紐もおんぶ紐もありません。でも、あなたと赤ちゃんに合った抱っこ紐やおんぶ紐はあります。
ご自身の生活や子育てに合うものと出会えるとよいですね。
文章中の出典(*)は以下のとおり。
- G. Esposito, S. Yoshida, R. Ohnishi, Y. Tsuneoka, M. del C. Rostagno, S. Yokota, S. Okabe, K. Kamiya, M. Hoshino, M. Shimizu, P. Venuti, T. Kikusui, T. Kato, and K. O. Kuroda, Infant Calming Responses during Maternal Carrying in Humans and Mice, Curr. Biol. 23, 739 (2013).
- S. F. Siddicky, D. B. Bumpass, A. Krishnan, S. A. Tackett, R. E. McCarthy, and E. M. Mannen, Positioning and Baby Devices Impact Infant Spinal Muscle Activity, J. Biomech. 104, 109741 (2020).
- T. Taylor, The Artificial Ape: How Technology Changed the Course of Human Evolution (St. Martin’s Publishing Group, 2010).