執筆:園田正世(北極しろくま堂) 抱っこ・おんぶの専門店として2000年創業
初回公開:2021年3月8日 / 最終更新:2026年9月4日

この記事の要点

  • 抱っこ紐での前向き抱っこは、赤ちゃんにとって視覚情報が多くなりやすく、CカーブやM字開脚の姿勢も保ちにくいと考えられています。

  • そのため、長時間の常用はおすすめしません。景色を見せたいときなど、短時間の利用にとどめるのが安心です。

  • 進行方向を向きたい赤ちゃんには、同じく前が見える「日本式のおんぶ」もよい選択肢です。

前向き抱っこにして赤ちゃんのお顔を見せると「かわいい」と言ってもらえて、親としては嬉しいものです。一方で、「前向き抱っこって本当に大丈夫かな?」とちょっと不安を感じたことはありませんか。抱っこ紐での前向き抱っこはいつからいつまでできるのか、赤ちゃんへの影響は――疑問はつきません。

前向き抱っこをすると赤ちゃんが喜んだり泣きやんだりすることがありますが、乳幼児の発達にくわしい専門家の間では「視覚情報が多くなりやすい抱き方」と考えられています。

なお、抱っこ紐ではなく、素手で腕を浮き輪のように組んでその中に赤ちゃんのお尻をすっぽり入れる腕を使った前向き抱っこは、短時間であれば赤ちゃんの背中の緊張をやわらげるのに役立つことがあります。この記事では、おもに抱っこ紐を使った前向き抱っこについて、影響とやり方を解説します。


前向き抱っこは短時間なら背中の緊張を和らげる効果がある。

前向き抱っこのメリットは?デメリットは?

メリットは赤ちゃんが進行方向を向いて視界が広がること、デメリットは赤ちゃんにとって情報が多くなりやすいことです。

前向き抱っこのメリットは?

いちばんのメリットは、赤ちゃんが進行方向を向いて視界が広がる点です。好奇心の強い赤ちゃんは、いろいろなものが見えることを喜ぶかもしれません。お顔が周囲によく見えるので「かわいい」と声をかけてもらえる機会も増えるでしょう。ですから、短い時間の前向き抱っこにはメリットがある場面もあります。

前向き抱っこのデメリットは?

もっとも気になるのは、赤ちゃんにとって情報が多くなりやすい点です。進行方向に向けて歩くと、赤ちゃんが自分で受けとめたい以上の情報が、自分では出せない速さで目に入ってきます。大人でも、車窓のように景色がめまぐるしく変わると、興奮したあとにぐったりすることがありますね。赤ちゃんが自分で歩いて情報を得るのとは違い、前向き抱っこは大人のスピードで「見せられている」状態になりやすく、負担になりやすいと考えられています。

姿勢の面でも注意が必要です。前向き抱っこでは赤ちゃんの足が宙に浮き、脚が下に垂れ下がりやすくなります。赤ちゃんの股関節にとっては、脚が自然にM字に開いた姿勢(開排位)が望ましいとされており、脚がまっすぐ垂れる姿勢は避けたいものです(国際股関節異形成協会)。また、足の裏がどこにもつかない状態は落ち着きにくく、目の前のことに集中しづらくなります(離乳食のとき、足の裏が台につく椅子に変えると落ち着いて食べられる、というのと同じ考え方です)。親御さんにとっても、赤ちゃんの重心が離れるぶん重く感じやすくなります。

前向き抱っこでなにをしたい?

  • お散歩できれいなお花や景色を見せたい
  • 公民館で他の子どもの様子を見せたい

など、「前向き抱っこで何をしたいか」をはっきりさせて、その目的だけ短時間かなえる、という使い方がおすすめです。混み合ったショッピングセンターなどで、赤ちゃんを前向き抱っこにして“露払い”のように先頭を歩かせるのは、感染面からもお勧めできません。いつもの抱っこだからとなんとなく続けているようなら、一度見直してみましょう。

抱っこ紐をつかった前向き抱っこの方法は?

《前向き抱っこ》いつから抱っこ紐を使っていいの?

抱っこ紐によって違いますが、腰がすわってから(お座りができるようになってから)とするものが多いようです。リングスリングには、首がすわってからできる方法もあります。

スリングを使った前向き抱っこの方法。

ヒップシートで前向きにする場合は、赤ちゃんがシートの上で前にずり落ちないように気をつけましょう。ベルトがあるので落下はしにくいものの、腰に負担がかかりやすくなります。

抱っこ紐で前向き抱っこをする方法は?

リングスリングで前向きにする方法は「カンガルー抱っこ」と呼びます。先にスリングを装着してポーチを深めに作り、赤ちゃんをのど元付近で抱き上げ、足をまとめてポーチの中へ滑らせていきます。詳細はこちらのページでご確認ください。

一般的なバックル式抱っこ紐(SSC)でも前向き抱っこができます。伸縮性のあるクロスタイプの抱っこ紐で前向きにするときは、身体の前で脚がまっすぐ貼り付いた状態にならないよう、M字開脚になるよう調整してください。いずれの場合も、お手持ちの製品の取扱説明書をよくお読みください。

抱っこ紐で前向き抱っこをする時の注意点は?

前述のとおり、長時間ずっと前を向かせることにメリットはありません。リングスリングでの前向き(カンガルー抱き)を新生児から1歳近くまで続けている方もいますが、赤ちゃんの背中がまるく(Cカーブ)、脚がM字開脚になる姿勢を目指すなら、対面での抱っこがおすすめです。カンガルー抱きは赤ちゃんの体がすっぽり入っているぶん、お辞儀をすると落下しやすいので、下のものを拾うときは膝を曲げてしゃがむなど、“おしとやかな感じ”を心がけてください。

バックル式(SSC)で前向きにするときは、ストラップをしっかり調整し、抱っこ紐の中で赤ちゃんが泳がないようにします。バックル式のなかには、赤ちゃんの足がまっすぐ下に垂れやすいタイプがあります。歩くたびに親御さんの腿で赤ちゃんの足を蹴っているようなら、姿勢が崩れているサインなので、抱っこし直してあげましょう。抱っこの位置が低くなっている場合もあります。伸縮性のあるクロスタイプでも同様です。

ヒップシートでは、シートの面積と赤ちゃんのおしりの大きさ(体格)が合わないと、姿勢が安定しません。スマートな赤ちゃんの場合は、タオルをはさむなどして調整してあげましょう。

よくある質問

赤ちゃんが喜んでいるなら前向きだっこは続けてもいいですか?

短い時間にとどめ、対面抱っこに切り替えてあげるとよいでしょう。赤ちゃんはお腹が守られていない状態で、自分では出せないスピードで移動するのを、少し怖く感じることもあります。はじめは新鮮で喜んでいても、長くなると赤ちゃんなりに疲れがたまります。赤ちゃんは同じ姿勢を続けるより、いろいろな身体の経験があるほうが発達に有利といわれています。ほかの抱っこやおんぶも試してみましょう。日本式のおんぶは前向き抱っこと同じく進行方向を向けるので、おすすめです。

前向き抱っこしている時に人混みに入ってしまったら?

前向き抱っこは人混みではあまりおすすめできません。冬場はインフルエンザや嘔吐下痢症などの感染も心配なので、混雑した場所では控えめにしましょう。

海外では前向き抱っこについてどのように考えられていますか?

前向き抱っこは抱っこのバリエーションの一つとして人気があり、多くのメーカーが前向きできる製品を出しています。この点は日本と大きく変わりません。一方で、布製の抱っこ紐を好む愛好者や団体の間では、CカーブやM字開脚が保ちにくいことなどから、前向き抱っこはあまり支持されていない、という傾向もあります。

こちらの記事では、抱っこ・おんぶに関する研究もご紹介しています。

いつごろから抱っこ紐で前向き抱っこをするようになったのですか?

2000年前後には、男性向けのベビーキャリアの広告などに前向き抱っこの写真が見られるようになりました。さかのぼって1980年代の育児雑誌の広告には、前向き抱っこの商品は見当たりません。比較的新しい抱き方といえそうです。

まとめ

腕を使った前向き抱っこは、短時間なら赤ちゃんの背中の緊張をやわらげるのに役立つことがあります。ただ、抱っこ紐での前向き抱っこは姿勢が崩れやすく、視覚情報も多くなりやすいため、常用は積極的にはおすすめしていません。北極しろくま堂としては、天気のよい日のお散歩などで、短時間、景色を楽しむくらいの使い方をおすすめします。前向きで気持ちよく過ごせる時間も、親子の楽しい思い出になりますように。

 

【参考】

姿勢と股関節の発達について(M字開脚=股関節の屈曲・外転が保たれやすい姿勢。脚をまっすぐ伸ばして閉じさせる姿勢や、きつい伸展スワドリングは股関節形成不全〈DDH〉のリスクとされています)

  • B. E. van Sleuwen ほか「Swaddling: A Systematic Review」Pediatrics, 2007;120(4):e1097–e1106(査読・系統的レビュー)

  • 北米小児整形外科学会(POSNA)「Swaddling and Developmental Hip Dysplasia」Position Statement, 2015

  • 米国整形外科学会(AAOS)「Swaddling and Developmental Hip Dysplasia」Position Statement


抱っこ・おんぶの効果全般について

  • 「Scoping Review of Biological and Behavioral Effects of Babywearing」JOGNN, 2022(査読総説)

※ これらは主に「姿勢」と「スワドリング」に関する知見です。抱っこ紐そのものが股関節形成不全を引き起こすと確定した質の高い研究は限られていますが、赤ちゃんの脚が自然に屈曲・外転できる抱き方が望ましい、という原則は専門家の間で広く共有されています。

 

March 09, 2021

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