~だっことおんぶをとりまく業界のプロたちと店主・園田による対談シリーズ~
新春特別企画対談「自由に、美しく生きる」第二部
作家 桐島洋子さん × 北極しろくま堂店主 園田正世
ご自身の「内なる重心」が判断基準という桐島さん。真の美しさとは何なのかを教えていただきました。第二部では日々の子育てや暮らしのヒントになる内容を伺いました。
育つ環境によって
桐島
ベトナム戦争の戦地で取材をしていた時、ある日農家を訪ねると女性と子どもしかいなかったんです。男達は戦争にかり出され、代わりに野山で働いているのは女達で、家に残って家事をするのが子ども達。ある家をのぞいた時、やはり子どもしかいなくて、5歳くらいの男の子が赤ん坊の面倒をみながら、ご飯を作っていました。よくやるなあ、けなげだなあと感心しているところに、突然轟音がして近くで爆撃が始まったんです。今の日本で同じようなことがあったら大人でもパニックを起こすような状況です。ところがその子は顔色ひとつ変えず、まずかまどの火を消し、それから大事なものをまとめて片手に持ち赤ん坊を抱いて外に出て、防空壕に飛び込んだ後さっと周りの草を使ってカモフラージュをしました。それだけの作業をほんの数分で声ひとつ立てずにやってのけたのには本当にびっくりしました。人間というのはここまで生育環境で違ってしまうのかと。
園田
すごいですね。幼稚園に通っているような子どもがそこまでできてしまうなんて。すごい話ですが、切なくなります。
桐島
ベトナムの子どもが幸せだとは思いません。子どもはもっと安楽な環境でのんびり育った方が幸せだとは思うんですが、日本ではなんでも親が手を出してしまいます。生活者としてなんの訓練も受けないで大人になってしまう日本の子どももベトナムの子も両方不幸せだと思うのです。考えてみると私はその中間のほどほどの逆境のもとで育ちました。今の社会はこれだけ物があふれていて、なお次から次へと欲望を刺激されて満足を知らないでしょう。あの頃は物がなかったけれど、お古の小さいぼろぼろのセーターをもらったら嬉しくてそれを抱きしめて寝たりもしたものです。
園田
ほどほどの逆境というのが、子育てにおいて必要なのかもしれませんね。確かにいくら物を与えても、その子どもが幸せとは限りません。
桐島
アメリカでの放浪時代、仕事もお金もない私が生き延びられたのは、母から厳しくしつけられたからでした。料理をはじめ生活者としての能力が優れているということはどこの家に居候しても喜ばれました。それが私にとって親からの一番の贈り物だったと思います。
園田
「聡明な女は料理がうまい」の本を読んで当時感銘を受けたのですが、食というまさに生活になくてはならない分野でも、桐島さんが考えられることや作り出されるものをとても美しいと感じました。
桐島
食生活には一番美意識が必要だと思います。お砂糖のかたまりだったり、酸化した油にまみれたもの、ああいうものを子どもが口にしていると思うとぞっとします。有機無農薬ということまで言っていたらきりがないけれど、せめて新鮮な野菜を食べさせるとか。常識的に健康な食事を毎日作っていればいいんです。といって、まずいものを健康にいいからって無理矢理食べさせる必要はないと思いますが。
園田
揚げ物などは簡単ですし子どももたくさん食べるからついやってしまうんですが、子育ても食事も全て自分のなかに重心がないとぶれてしまって大変ですよね。
桐島
内なる重心、とにかく自分が気持ちがいいってことが大事なんです。気持ちがいいことだけをしていれば無事だと思います。私は子どもの頃、「お天道様」という言葉が好きでした。「これはお天道様に恥ずかしくないか」というのが1つの判断基準でしたね。 お天道様、それからお月様。子ども達にもそれをちゃんと意識して伝えるんです。一週間の一日一日にそれぞれテーマがあるんですから。
園田
日、月、火、水、木、金、土ですね。
桐島
次は火。火は人間の生活において原点です。外国だとお客様が来た時に、夏でも暖炉に火を入れたりします。火があることで心が温まり、会話がはずむんです。日本でも鍋物をするとか、ろうそくを点けるとか、お香を焚くとか、暮らしの中で火を大事にしたいですね。娘のかれんの家ではたき火をよくしていますが、その時には父親がリーダーとして子どもの尊敬を集めます。
火の次は水。私はいつも花を生活に取り入れたいのですが、花には水がつきものでしょう。花が枯れれば枯れた部分は葬って水を入れ替えて生け直し、花びらだけが残ってもそれを水に浮かべて、花の命を最後まで子ども達にも見せるとか。そこに水というものが必ず介在します。
そして木。私はバンクーバーに行くとしょっちゅう森を歩きます。バンクーバーの森は道をつける以外は一木一草手を付けずにおくのが決まりなんです。雷に打たれた木が道をふさいでいても、横たわったままにしておく。それが苔むして、そこにまた宿り木が生えてきたり。そういうもので生命の循環を目の当たりにできる。新しい芽が出てくるのを見ると、自分の姿をみせられたようで親として励まされます。枯れた木からまた若い芽が増えていく様子で子ども達に命のつながりを伝えることができます。日本だって木や山は十分にあるんだから、週末は森を歩くとかそういうことをもっとしたらいいと思います。
それから金。お金は大事なものですが、それに執着心をもってほしくないので、さらりと合理的に話をしたいですね。うちはお金持ちではなかったけれど、なるべく子ども達に経理を公開していました。今月はいくら稼いで、いくら貯金をして、とちゃんと説明をした上で、だからあなた達の小遣いはこれだけと、そういうことを子ども達にきちんと話していました。
園田
それはいいですね。金銭感覚もつきますし、家庭の事情も分かる。だから無理を言わなくなる。
桐島
そうでしょう。それで金の次は土。土をふむということも大事ですよね。やっぱり大地とつながらないとdown to earthな子どもに育たないから。down to earthという言葉が大好きなんです。地に足がついたというような意味です。土のエネルギーを感じながら生きることは人間としてもっとも基本的なことです。
園田
内なる重心、down to earth、美意識。すべてつながっているんですね。子育てに限らず、1人の人間としての生き方の根源的なものを教えていただいた気がします。桐島さんに教えていただいたことを会社のスタッフと共有し、お客様にも感じてもらえるようなものづくりをしていきたいと今、強く思っています。憧れの桐島さんにお会いできて本当に良かったです。ありがとうございました。
桐島洋子さんプロフィール
作家。1937年生。'56年都立駒場高校を卒業して、文藝春秋に入社し、9年間ジャーナリズム修行ののち、’65年退社し、フリー・ライターとして世界を巡遊。'67年には従軍記者になり、ヴェトナム戦争を体験する。'68年からアメリカで暮らし、'70年処女作「渚と澪と舵-ふうてんママの手紙」刊行を機に帰国。'72年には、アメリカ社会の深層を抉る衝撃の文明論「淋しいアメリカ人」で第3回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。以来マスメディアの第一線で著作・テレビ・講演などに幅広く活躍しながら、独身のまま、かれん(モデル)・ノエル(エッセイスト)・ローランド(フォトグラファー)の3児を育て上げる。料理ブームのさきがけとなったベストセラー「聡明な女は料理がうまい」や、女性の自立と成熟を促した「女ざかり」シリーズをはじめ、すべて実体験に基づく育児論、女性論、旅行記などは、その斬新な発想と痛快な迫力で広く人気を集めた。子育てを終えてからは、”林住期”を宣言して仕事を絞り、年の三分の一はカナダで晴耕雨読し、人生の成熟の秋を穏やかに愉しみ、環境問題・ホリスティック医療・氣功・精神世界などにも関心も深めている。また、70歳を機に「人生最後のご奉公」と、東京の自宅で私塾「森羅塾」を主宰し、自らの人生を伝承する講座などを開いている。
桐島洋子さんブログ
http://yokokirishima.jugem.jp/
桐島洋子さんFacebook
https://www.facebook.com/yoko.kirishima
桐島洋子さん著書
「聡明な女は料理がうまい」
アノニマ・スタジオ
「50歳からのこだわらない生き方」
大和書房
キュット ミー!でおでかけ 冬編
寒いからって一日中赤ちゃんと二人っきりでおうちの中にいるのも、結構たいへん。
ちょっとお散歩に出て気分転換しませんか?
ナイロン地のコートの場合、コートの上からのスリング装着は滑って難しいので、上からコートを羽織りましょう。
ぽかぽか暖かい小春日和ならテールを使ってちょっと赤ちゃんを覆ってあげることもできます。
赤ちゃんはお部屋着でだっこして、防寒にはブランケットなどを使って、スリングの間に差し込めば簡単。
こうしておけば、スーパーなど暖房が効いている場所に行っても、コートを脱いでブランケットを外せば、抱っこしたままでいられるので楽チンです!
編集後記
店主園田が、だっこやおんぶの話を綴るブログ「だっことおんぶログ」が好評です。
だっこやおんぶの方法は元より、ベビーウェアリングの研究や懐かしのねんねこ半纏のこと、はたまた春から大学生になることまで、だっこやおんぶにまつわる園田の想いが散りばめられた内容となっています。 子育てや家事の合間にぜひご覧ください!
だっことおんぶログ http://ameblo.jp/babywearing/
SHIROKUMA mail editor: MK
EDITORS
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Creative Director Mayu Kyoi
Writer Mayu Kyoi, Masahiko Hirano
Copy Writer Mayu Kyoi, Masahiko Hirano
Photographer Yasuko Mochizuki, Yoko Fujimoto, Keiko Kubota
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