新年特別企画 「赤ちゃんの眠りから考える子育て」
赤ちゃんの眠り研究所 代表理事 清水悦子さん × 北極しろくま堂店主 園田正世
赤ちゃんの「寝言泣き」をご存知でしょうか?
著書「赤ちゃんにもママにも優しい安眠ガイド」や夜泣き講座でご活躍の清水悦子さんは、赤ちゃんの眠りに関する研究を行っていらっしゃいます。人の睡眠から現代の子育て事情に関してまで、清水さんご自身の子育て体験にも触れながらお話を伺いました。
園田
ご著書がお母さんたちの間で非常に話題になっていますね。
夜泣きで悩まれているという方は多いのでしょうか。
清水
そうですね。講座を開催するとあっという間に定員に達します。ご参加される方の2割は今まさに夜泣きで悩まれている方ですが、赤ちゃんは低月齢で夜泣きは始まっていないけれど今後のために勉強しておきたいという方も多いです。皆さん勉強熱心だなあと感じます。
園田
清水さんは夜泣き専門保育士と名乗られていらっしゃいますが、ぜひお聞きしたかったことがあるんです。
赤ちゃんってうまく寝入れないときがありますよね。眠たいから泣いているんだろうけれど、誰も寝るなとは言っていないんだから、寝たいなら寝ればいいじゃないって思っていました。
清水
そうですよね。本当にそう思います。科学的に証明されているわけではないですが、私はお母さん方に講座の中ではこうお伝えしています。
動物的な感覚では、寝ることで敵に襲われるかもしれないという危険が増します。つまり眠ることが死と非常に近い状態になります。赤ちゃんにとってみれば、自分の感覚を閉ざし、お母さんと離れるという体験になります。だから基本的には生まれたばかりの赤ちゃんは眠ることに対して恐怖心が非常に強いのだろうと考えています。
人間以外の動物は、なるべく寝ないでいることで身の安全が守られるので、成長に伴って睡眠時間が短くなっていきます。
園田
では、他の動物は人間より睡眠時間が短いということですか。
清水
ええ。シマウマは1日4時間、キリンなんて2時間なんです。
園田
そうなんですね!
清水
サバンナにいて肉食獣に命を狙われる可能性がある動物は睡眠時間を短くして身を守ります。
園田
では、人間の睡眠時間が長いということは、命を狙われる可能性が少なかったということでしょうか。
清水
人間は他の動物に比べて脳が非常に発達しているので、その脳を休める必要があって、ある程度の睡眠時間が必要です。睡眠中は身を守るために、その頭を使って工夫することで身を守ってきたのでしょう。
考えてみれば夜泣きがひどいということは、敵に襲われる可能性を上げていることになります。ここにいますと知らせているようなものです。
園田
安心しているから泣いているんでしょう、と聞いたことがありますね。
清水
わあっと泣いてしまったら命を危険にさらすことになるから、そんなに泣くのはおかしいのではないかと私は思っています。お母さんを呼ぶためなら理解できるのですが。
ただ、以前アフリカに住む助産師さんからアフリカの電気がきていない地域でも夜泣きで悩んでいる人はいると聞きました。泣きと安心に関してはまだまだ研究の余地があるのでしょう。
園田
アフリカといえば、先日アフリカで観察研究を行った文化人類学の先生がおっしゃっていたのですが、あちらでは赤ちゃんは昼間はずっとおぶわれているのですが、その負ぶわれている時間のうち70%は寝ているそうです。
清水
長いですね。
園田
それでもその赤ちゃんは、夜も普通に寝るそうです。そして同じ赤ちゃんがきょうだいなどが昼間面倒をみているとき、つまりあまり負ぶわれていない日を観察すると、そういう日は昼間ほとんど寝ないのだそうです。
清水
睡眠時間がばらばらなんですね。
園田
昼間のそれを睡眠時間とカウントするのかはわかりませんが。
清水
そこについては難しいんですよ。まだどちらと言えるのかは解明されていません。
園田
出産や子育てに関しては解明されていないことが本当に多いと感じます。だから子育てに関する噂が多いですよね。よく言われている迷信のようなものは、すべてエビデンス(※)がないなと感じます。
横抱きにしましょうと言うけれど、これにもエビデンス(※)がないなと感じています。なぜ横抱きにするイメージがついてしまったのだろうと。
清水
うちの娘は横抱きをすごく嫌がる子で、常に首は支えていましたがずっと縦に抱いていました。それでも首は普通にすわりました。
育児関係の迷信って沢山ありますよね。
園田
泣いたら抱っこばかりしていると抱き癖がつくとか。胸が大きいと母乳の出が悪いとか。
清水
どれもほとんどエビデンスがないです。
園田
抱っこや睡眠について語られている事も、エビデンスがあるものは少ないですよね。
清水
私もそうなんですが、今のお母さん達の世代は何事に関しても本などで勉強をしてきた故に、赤ちゃんという何も分からない物体を直感で育てるより、それらしい理由付けやエビデンスがあってこそ安心できる方が多いように感じます。夜泣きに関する講座を行う時ももちろんエビデンスを意識した話をするのですが、いつも必ず最後に伝えることがあります。睡眠や子育てに関するエビデンスのようなものは、統計をとって全体を比べたときにそういう傾向があるというだけであって、目の前の我が子がその通りなのかというのはまた別の話になります。お母さんたちには、まずは目の前にいる自分の子どもを見てほしいです。目の前の子どもを見て、自分の感覚を大事にしてほしいなと強く思います。
園田
私も同感です。目の前にいる子が何かを訴えている、何か言いたいと思っている。言葉を発しないだけなんですよね。しゃべらないから分からないのではなく、一緒にいて人間同士つながっていることで目の動きひとつでも分かりあえることがあると思っています。
清水
そうですよね。夜泣き対策の話の中で、何時に起きて何時に寝て、というような時間軸での例をあげることがあります。それを伝えると、その時間の通りにならないという悩みをもつ方がいらっしゃいます。本来は悩まなくてもいいはずの「悩み」を私が作ってしまうことになってしまうので、情報の出し方が非常に難しいなと感じています。
現代の育児は、何かおかしいと思った時にその子を観察しないですぐ検索に走る。インターネットが普及している環境下では仕方がない部分もあるとは思うのですが。
園田
なんで泣いているんだろうと理由を探すより、自分がやってあげたいことをやってあげるというシンプルな方法でいいのではないのでしょうか。
清水
私は自分の娘の夜泣き体験とその対処法を考えたことがきっかけで今の研究をしているのですが、自分の娘の夜泣きが治った後でふと気づくと、娘が全然笑わなくなっていたんです。私自身がほとんどノイローゼのような状態になってしまっていて、目の前にいる娘を見ていなかった。娘を見ずに理由を探す事だけに一生懸命になっていて、夜泣きがひどかったその半年間、おむつを換えたりおっぱいをあげたりとお世話はしていたのに、娘とのコミュニケーションをほぼ絶ってしまっていたのです。そのことに全く気付いていませんでした。1歳を過ぎても言葉も発しようとせず、私の胸の中で泣いてくれなくなっていました。赤ちゃんって積み木を倒しただけでも「おかあさーん」という風に泣いてお母さんのところへきますよね。当時の娘はそうではなく、泣く時はお気に入りのタオル地のぬいぐるみを持って、わざわざ部屋の隅っこに行って私を見ながらこらえたように泣くんです。それに気付いた時は「私はなんてことをしてしまったんだろう」って後悔しかありませんでした。
幸いなことに良い先生に巡り会えて、親子の信頼関係も今では取り戻せているのですが。お母さん達には、今何が一番大事なのか、目の前にいるお子さんを見るということはどういう事なのかを改めて考えてほしいです。
子どもの笑顔に、お母さんも笑顔をかえす。それだけでいい。泣いているときには一生懸命泣き止ませようとするのではなく、泣いていいよ泣いていいよ、泣いている間中抱っこしてあげるから、と言ってあげられる心の余裕を持ってほしいです。
「何時」などの数字に振り回されるのではなく、自分の心の余裕を大事にしながら、子どもの反応に向き合ってあげられる親であることを目指してほしいなと思っています。
園田
第二子が新生児のときに、夜中におっぱいを飲ませた後赤ちゃんは起きて静かにしていることがありました。満足しているような雰囲気だったので、「おかあさん寝るよ」と言って先に寝ました。その時初めて、「あ、これやってもいいんだ」って気がついたんです。子どもが寝ていないとお母さんも寝ちゃいけないって呪縛のように思ってしまっているんですよね。
清水
ほんと、思い込みですよね。
園田
意味がないことだと思うんです。
清水
基本的に人間は動物なので、安心できる環境下でないと眠れないんです。先ほどもお話したように赤ちゃんが眠るということは恐怖心を伴うので、安心感を伝えてあげないと、ここは寝てもいい場所なんだよと分からないと寝ないのです。お母さんが先に寝るというのは、安心だよと伝えていることになります。
園田
お母さんが寝てるから寝ていいんだ、となるわけですね。
清水
大人は浅い眠りのときに寝言を言ったりしますよね。赤ちゃんだって同じですがまだ言葉が話せないので、泣き声になります。私はこれを「寝言泣き」と言っています。赤ちゃんが夜中に泣くのは毎回ママに何かを訴えているわけではありません。40分〜60分おきに泣くときは寝言泣きの可能性が高いと思っています。毎回抱き上げていると寝言を言う度に赤ちゃんを起こしている、つまり睡眠を妨げていることになる可能性もあります。時には2、3分寝たふりをして様子を見ることも必要です。
お母さんたちには安心感を演出するために、寝たふりの演技を頑張りましょうと言いたいですね。先に寝てしまうというのも、寝かしつけの大事なスキルだと思います。
園田
本当ですね。(笑)いずれにしても心に余裕をもって、どんと構えて子どもと向き合うというのが大切だということなのでしょうね。
※エビデンス=科学的根拠
清水悦子さんプロフィール
理学療法士として病院勤務後、長女を出産。夜泣きとその改善体験から保育士資格を取得。2010年から「夜泣き専門保育士」として活動を始める。2013年お茶の水大学大学院保育児童学コース博士前期課程修了。2014年任意団体「赤ちゃんの眠り研究所」設立。現在は東京大学大学院博士課程にて乳幼児の睡眠研究を継続中。
北極しろくま堂使い方相談会にようこそ!
毎月こちらのメールマガジンでご紹介しているように、北極しろくま堂ではキュット ミー!やへこおび、昔ながらのおんぶひもの使い方相談会を開催しています。そうは言っても、「相談会ってどんな感じなんだろう?」「行ってみたいけどなんとなく不安…」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は1月20日(火)に京都府京都市にある足立病院で開催された相談会に少しお邪魔してきました。足立病院では昨年から月に1回相談会を開催しています。会場にはたくさんのお母さんと赤ちゃんにお越しいただき、とってもにぎやかでした。
コンシェルジュに、相談会についてインタビューしてみました。
Q.いつも何人くらいの人がいらっしゃるんですか?
A.足立病院の相談会は予約不要なのでいつ来ていただいても構いません。その日によって人数はさまざまですが、今回は多くの方に来ていただいてとてもにぎわっていますね。
Q.どんな方が会場にいらっしゃいますか?
A.ご購入後に使い方の相談で来られる方と、購入をご検討中の方と半々くらいという印象です。キュットミー!をお使いいただいていた方が、赤ちゃんが大きくなってからおんぶひものご購入希望で来て下さることもありますね。
Q.買おうかどうしようか迷っているという方も多いと思います。試すだけでも構いませんか?
A.もちろん、ご試着だけでも大歓迎です!たくさんの方にキュット ミー!や昔ながらのおんぶひもの使い心地を体験していただきたいと思っています。
Q.どんな悩みや質問を受けることが多いですか?
A.首すわり前の赤ちゃんの場合は、使い方の確認で来られる方が多いです。あとはある程度使いこなせているけれど、これであっているのか知りたくていらっしゃる方もいます。赤ちゃんが大きくなってきた方から使い方をもう一度確認したくてというお声もよく聞きます.
Q.どの商品が人気があるように思われますか?
A.足立病院では、キュット ミー!823(中綿なし)が人気がありますね。最近ではタートリーノNEOをお求めになる方も増えてきました
Q.最後に一言、メルマガ読者のみなさんにひとことメッセージをお願いします。
A.少しでも不安に思うことがあったら、お気軽に会場にお越し下さい。どの商品が自分の子育てに合っているのか試していただけたらうれしいです。
商品ご購入後使い方に不安がある方、実際に商品を試してみたい方、ちょっと覗いてみたい方、どなたでもお気軽にお越しください。北極しろくま堂のスタッフがお母さんと赤ちゃんのBaby wearing ライフのお手伝いをします。
全国各地に当社の製品が試着できる取扱店もございますので、ぜひご利用ください。
もちろんお電話やメールでもご相談を承っております。こちらも併せてお気軽にご利用ください。
次号予告
赤ちゃんがいる家の防災
東日本大震災から4年となる今年。東北の被災地ではまだまだ元通りの生活ができているとはいえない状況で、復興にかかる時間が震災の影響の大きさを物語っています。日本はどの地域でも大きな地震が起こる可能性が懸念されます。今一度、防災について見直してみませんか。
編集後記
足立病院の相談会にお越しくださったお母さん。タートリーノをとても上手に使いこなしていらっしゃるのですが、装着後30分くらいすると、赤ちゃんの位置がどうも下がってくる気がするとのこと。
改善案をいくつか試していただき、解消できたのですが、この「どうも下がってくる気がする」感覚を大事にしていただきたいなと思います。
北極しろくま堂の製品は少しの布の引き加減などで、使い心地が変わります。お母さんと赤ちゃんに丁度いい具合を調整できるのがいいところなので、その「丁度いい」を探っていただきたいと思っています。
マニュアルがあふれる現代になり、着物を着なくなった日本人は「丁度いい」を自分で探る必要がなくなりました。日本人が忘れてしまった感覚、子育てを通して取り戻していただけたら幸いです。
EDITORS
Producer Masayo Sonoda
Creative Director Mayu Kyoi
Writer Mayu Kyoi, Mai Katsumi, Masahiko Hirano
Copy Writer Mayu Kyoi, Masahiko Hirano
Photographer Yasuko Mochizuki, Yoko Fujimoto, Keiko Kubota
Illustration 823design Hatsumi Tonegawa
Web Designer Nobue Kawashima