新柄・Hishi/桃×オリーブ

北極しろくま堂のスリング、へこおびラインナップに新柄・新色が加わります。しじら織りでも平織りでもジャカードでもない、新たな挑戦です。

今回初めて織り上げた生地はダイアモンド織りをベースにしたひし形柄。柄一つあたりは1センチ角程度で小さめですので、遠くからだと柄は目立ちませんが、生地の色合いに奥行きを与えています。

打ち合わせ初回は5月半ば過ぎ。

「しじら織りよりは厚手の生地を作ってみたい」

「幾何学模様のような、日本の古典柄のような、単調な柄の繰り返しを織りで表現した生地を作ってみたい」
との思いから新柄作りは始まりました。織物職人さんとカラーコーディネーターさんのご協力のもと、糸の太さ、柄の大きさ、柄の種類、色合わせを検討してきました。

柄の名前は“Hishi”。「菱形」からその名をつけました。
菱は古くより日本の池や沼・湖に自生していたアカバナ科の水草です。白い花を咲かせ、固い実ををつけます。その実の形から“菱形”という形の呼び名が生まれたそうです。菱形は家紋のモチーフや織物の模様に使用されるほか、桃の節句の菱餅の形でもあります。菱餅の色である緑、赤(桃色)、白の3色はそれぞれ、健康、魔除け、清浄を表しているそうです。今回の新色はまさにこの3色を使用して織られています。
また、菱は繁殖力が強く実が堅いことから、子孫繁栄と長寿の力があるとされています。

参考・写真出展
文様の原点・菱 http://chusan.info/kobore6/410hishi.htm

菱の花と葉

今回の色名は“もも×オリーブ”。果実の名前を組み合わせました。
織りと色の組み合わせを決めるにあたりアドバイスをくださった、カラーコーディネーターの塚本由紀江さんからコメントをいただいています。

今回の生地のデザインテーマは、「織りで表現する小さな幾何学模様」でした。生地売り場にある先染め織物(※1)の柄というと、大抵はストライプかチェックになります。代表的な幾何学模様の1つとして、古くから親しまれている菱形を、小さな織柄として使うというアイデアには、古風な印象と同時に新鮮さが感じられました。

この生地のたて糸には、くすみのあるピンクとグリーンを使用しています。色名でいうと、ピンクは桃色、退紅(あらぞめ/たいこう)、一斤染(いっこんぞめ)、グリーンは黄海松茶(きみるちゃ)、鶸茶(ひわちゃ)、青朽葉(あおくちば)などになるかと思います。どちらの色も日本の伝統色のイメージです。その経糸の色と、家紋(菱形文)を彷彿とさせる織柄からは落ち着いた和の雰囲気が感じられますが、織り上がった生地は、色みのコントラストやよこ糸の白によって和に寄りすぎず明るい印象となっています。

「機能面でもデザイン面でも使いやすく、そして、さりげない個性が光る生地を」というスタッフの皆さんの想いを、是非とも手に取って感じていただけたらと思います。

余談になりますが、今年の改元の報道や近年の著名なデザインで使われている日本の伝統色名について、簡単に紹介させていただこうと思います。

今年5月の改元に関する報道では、「黄櫨染(こうろぜん)」と「鶸色(ひわいろ)」という色名が紹介されました。「黄櫨染(こうろぜん)」は、嵯峨天皇が唐の制度に倣って定めた天皇の袍の色で、天皇以外は身につけることができない「絶対禁色」とされた深い黄褐色です。複雑な染色工程と植物染料の特性によって、日光では赤褐色に、灯火では赤くも見える色とされています。

同様に、絶対禁色である皇太子の礼服の色は「黄丹(おうに/おうたん)」(オレンジ色)といいます。「黄櫨染」より100年ほど前に制定され、その鮮やかなオレンジは、1890年頃に「MIKADO(ミカド)」という英語の色名になっています。(「ミカド」は、その後「ミカド・オレンジ」「ミカド・ブラウン」と区別されています)

「鶸色」は、一般参賀で雅子様が着用されたドレスの色で、宮内庁が発表した色名です。動物に由来する色名としては古く、武士の狩衣(かりぎぬ)の色として、鎌倉時代から使われるようになったといわれています。

少し遡りますが、2012年に竣工された東京スカイツリーの色は、「藍白」(形:日本刀の「そり」、寺社建築の「むくり」を採用)、2016年に決定した東京オリンピックのエンブレムは「藍色」(形:江戸時代に流行した「市松模様」がモチーフ)です。どちらも「ジャパンブルー」として知られる藍染めの色に由来します。

2018年には、すぐれた車両のカラーデザインを顕彰する「オートカラーアウォード」において、トヨタ「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」が特別賞を受賞していますが、その外板色は「コイアイ(深藍)」と名付けられました。「コイアイ」は、景観の一部となる乗り物の色を伝統色で表現し、「風景に溶け込み、風景を変える色」、訪日客に「日本らしさを伝える色」として開発されたそうです。

来年のオリンピック、パラリンピックの期間中は、テレビでも、東京の街を走る「コイアイ」のジャパンタクシーが見られるのではないかと思います。

※1先染め織物:あらかじめ染色された糸を使って織られた織物。反対に、先に生地を織った後に染色したものを後染め織物という。

菱の生地は、和のテイストとやわらかいパステル調の両方の要素をもつピンクとグリーンです。コーディネートするならば、ライトグレーやホワイト、ライトブルー、ライトベージュ、または同系色の濃淡の色と組み合わせるときれいに決まります。これに限らず、明るめの色合いや生地より少し落ち着いた明るさの色もよく合います、柄物と合わせる場合は、色みか明るさのどちらかに共通性を持たせるようにすると、バランスが取りやすくなります。

今回の生地は今まで織ってきたものよりも厚手。251g/㎡です。コンパクトにはなりにくいですが、その分肩への食い込みが少なく、重たくなってきた子の抱っこ・おんぶでも快適です。

へこおびは10月4日先行発売しています。

薄手の生地を得意としていた北極しろくま堂の新たなチャレンジ”Hishi”。少し厚手の生地ですが、実際に使っていただくと荷重が分散されて気持ちよく抱っこやおんぶができます。お子様の成長とともにより快適な抱っこひもをご検討中の方にぜひおすすめいたします。


次号予告

北極しろくま堂 20周年を迎えます!!
2019年12月、北極しろくま堂は創業20周年を迎えます。
これまでご愛顧くださったみなさまへの感謝の気持ちとともに、ハタチを迎える北極しろくま堂のこれまでを年表で振り返ります。


編集後記

10月の台風や大雨で被害に遭われたみなさまにはこころよりお見舞い申し上げます。1日も早い復旧を願っています。
一気に気温が下がり秋を感じられるようになりました。毎年思うのですが、最近は秋の期間が短くなったように感じられます。気がつくとあっという間に冬に突入で、薄手のコートの出番が本当に少ないです。
今月ご紹介したHishi/桃×オリーブ、北極しろくま堂スタッフ一押しの生地です。コンパクト、乾きやすい、夏に涼しいなど薄手の生地にはそのよさがありますが、厚手の生地はなんと言っても、身体が楽ちん!食い込みが少ないので、薄手の生地との体感の違いにびっくりします。抱っこやおんぶで体がつらい…という方に是非手にとっていただきたいです。
SHIROKUMA mail editor: MK②

EDITORS
Producer Masayo Sonoda
Creative Director Mai Katsumi
Writer Mai Katsumi, Masahiko Hirano
Copy Writer Mai Katsumi, Masahiko Hirano
Photographer Yasuko Mochizuki, Yoko Fujimoto, Keiko Kubota
Illustration 823design Hatsumi Tonegawa
Web Designer Nobue Kawashima