赤ちゃんを一日中抱っこしていると、「なんでこんなに大変なんだろう…」とため息が出ること、ありますよね。
でもご紹介するこの研究を知れば、ちょっと見方が変わります。実は赤ちゃんも「抱っこされるための準備」を自分なりに一生懸命していて、親の抱き上げを手伝ってくれているのです。

*参考文献
Reddy, V., Markova, G., & Wallot, S. (2013). Anticipatory adjustments to being picked up in infancy. PLoS ONE, 8(6), e65289. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0065289

どんな研究?

イギリスの研究チームは、生後2〜4か月の赤ちゃんが「抱き上げられる前」にどんな動きをしているかを詳しく調べました。
赤ちゃんをベッドのような台の上に寝かせ、お母さんには次のようにしてもらいます。

1. まずおしゃべりタイム(Chat)
  赤ちゃんの前でいつも通りに話しかける。

2. 抱き上げに向けて腕を伸ばす(Approach)
  まだ触れてはいないけれど、「今から抱っこするよ」という動き。

3. 赤ちゃんの体に手が触れてから、持ち上げる直前まで(Contact)

この3つの場面で、

・赤ちゃんの手足の動き
・体全体のバランス(圧力センサーつきマットで計測)
・視線(顔を見ているか、手を見ているか)

を細かく分析しました。

赤ちゃんは抱っこされる前からだっこの準備をしている

1. 手足の動きの変化

研究では、特に**腕と脚の「特別な動き」**に注目しました。

  • 腕:横に広げる、上に持ち上げる、頭の横に引き上げる

  • 脚:ピーンと伸ばして少し持ち上げる、あるいはギュッと体に引き寄せて丸くする

  • 顎・頭:顎を上げて背中をそらす、頭を横に向ける など

結果として、

  • おしゃべり中(喃語など、Chat)にはほとんど出ない動きが、

  • お母さんの腕が近づき始めた瞬間(Approach)から急に増え

  • 触れられてから持ち上げるまで(Contact)にさらに増える

ことがわかりました。

一方で、

  • おしゃべり中は「バタバタ・ジタバタ」した全身のばたつきが多いのに対し、

  • 抱き上げ直前にはそのばたつきがスッと減って、体が落ち着く

という変化も見られました。

つまり、赤ちゃんは

「あ、今から抱っこされるぞ」
→ 手足をうまく動かして体を固め、
→ ばたつきを減らして抱きやすい姿勢になる

という“準備”をしているのです。

2. 生後2〜4か月でどう変わる?

同じ赤ちゃんを2・3・4か月と追いかけた研究では、

  • 2か月でもすでに「抱っこ準備の動き」は見られる

  • ただし、タイミングが早すぎたり、場面(おしゃべり中なのか、腕が近づいている時なのか)がまだあまり区別されていない

  • 3〜4か月になると、「今だ!」というタイミングでうまく調整して動く

ことがわかりました。

また、4か月頃になると、
お母さんの顔だけでなく「手」をじっと見る時間が増えることもわかりました。
「手が動き始めた=そろそろ抱っこだ」と学んでいるのかもしれません。

 

赤ちゃんはなされるがままではない、みたい

この研究が教えてくれるのは、

赤ちゃんは、ただ受け身で抱かれているだけではない。
「自分に向けられた行為(抱っこ)」をちゃんと感じ取り、
自分の体を使って、抱き上げをスムーズにするよう“協力”している。

ということです。

これまでの多くの研究は、
「大人がどこかの物をつかむ」「ボールをつかむ」など、赤ちゃんが“見ているだけ”の状況を調べてきました。

でも、赤ちゃんの生活の中心は、

  • 抱っこされる

  • おっぱいやミルクをもらう

  • 服を着せてもらう

など、自分の体に直接向けられる行為ですよね。

その一つである「抱っこされる」という場面で、たった2〜3か月の赤ちゃんでも、
すでに相手の行為を先読みし、共同作業に参加している、というのがこの研究の大きなポイントです。

赤ちゃんも自分なりに子育てに協力している

一日何十回も続く抱っこ。
「私ばかり頑張っている」と感じてしまうこともあると思います。

しかし、この研究を知ると、

  • 赤ちゃんはお母さんやお父さんの動きをよく見て、

  • 抱きやすいように体を固めたり、

  • 手をどけて胸の前を空けたり、

  • 頭がガクンとならないように姿勢を調整したり、

実はかなり気をつかってくれていることが見えてきます。

そう思うと、「今日も一緒に抱っこをがんばってくれてるんだね」と、少し気持ちが軽くなるのではないでしょうか。

抱っこがラクになる”身体の使い方”のヒント

研究者たちは、「ヨガやバレエのように、体がしっかり固まっていると持ち上げやすい」と説明しています。

親の側からできることとしては、

  • 自分の胸と赤ちゃんの胸(お腹)を近づけ、体同士をしっかりくっつける

  • 赤ちゃんの背中〜腰をまっすぐ支え、体が一本の“棒”のようになるイメージで抱き上げる

  • 赤ちゃんの体が離れて、ぶら下がるような姿勢にならないようにする
    (重心が離れるほど、腕や腰への負担が増えます)

という「重心を近づける抱き方」がポイントになります。
スリングや抱っこひもなどの道具を使うときも、

  • からだ同士が密着しているか

  • 赤ちゃんの背中と首が自然なカーブを保ったまま、しっかり支えられているか

を意識すると、赤ちゃんの「抱っこ準備」と親の支えがうまくかみ合い、お互いにラクな抱っこになっていきます。

おわりに

抱っこは、親だけが一方的にがんばる作業ではありません。
生後2か月くらいの、まだ首もすわっていないような時期から、赤ちゃんは自分なりのやり方で、抱っこという共同作業に参加していることがこの研究から見えてきます。

今日、赤ちゃんを抱き上げるとき、
お母さん・お父さんの腕が動き出した瞬間の、
赤ちゃんの手足や体の変化に少しだけ注目してみてください。

きっとそこには、
「抱っこ、よろしくね。私もちゃんと準備するよ」
という、小さなけれど心強い“協力のサイン”が隠れているはずです。