赤ちゃんが泣きやむ魔法の方法？──音楽とママの揺れがもたらす驚きの効果

今回は育児にちょっとしたヒントをくれる科学研究をご紹介します。

テーマは「音楽」。
赤ちゃんに歌を歌ってあげたり、CDで音楽をかけたり、そんなふうに音楽を使って子育てをしているご家庭は多いですよね。では、音楽は本当に赤ちゃんにとって“心を落ち着ける魔法”なのでしょうか？　

実は、ある研究チームがこの「音楽と赤ちゃんの心身の状態」「音楽がママの動きに与える影響」について、科学的に調べてくれました。しかも、その場面はとてもリアル。ママが赤ちゃんを縦抱きしてあやしているという、まさに家庭での日常の一コマを再現して行われたのです。

この記事は『音楽が乳児の心理生理状態と母親のあやし行動に与える影響』（日本音響学会誌77巻10号(2021), pp.626-633，吉村麻美ら）の論文をわかりやすく解説したものです。

どんな研究？

対象は生後6〜7か月の赤ちゃん17人とそのお母さんたち。実験では、次の4つの状況で赤ちゃんの心拍数（ドキドキの速さ）と、ママの体の動きを調べました。

1. ママが普通に話しかける
2. ママが童謡（「犬のおまわりさん」）を歌う
3. CDで同じ曲を流す
4. ママの歌を録音した音声をスピーカーからながす

赤ちゃんの「落ち着き度合い」は、心拍数で確認しました。心拍数は緊張したり感情的になると速くなり、落ち着くとゆっくりになりますよね。そして、ママの体の動きは、ビデオカメラやセンサーを使って「揺れ」の量やリズムを測定しました。

音楽は赤ちゃんを落ち着かせる！

結論から言えること、それは──

👉 「歌」や「CD音楽」は、赤ちゃんの心拍数を下げる＝落ち着かせる効果がある！
でした。

一方で、ママが普通に話しかけるだけでは、赤ちゃんの心拍数はあまり変わりませんでした。つまり、「話すだけ」よりも「歌う」ほうが赤ちゃんにとっては心地よいようです。

さらに興味深いのが、CD音楽のときの落ち着き効果がいちばん大きかったという点です。録音されたママの歌声よりも効果がありました。（まじか…）

ママの揺れにも違いがあった

研究は、赤ちゃんだけではなく、ママの行動にも注目しました。

すると、歌ったり、音楽が流れているときには、ママは自然と体をリズミカルに揺らす時間が長くなっていたのです。

特にCD音楽では、ママたちの揺れのテンポが驚くほど揃っていました。これはCDのリズムに体が自然と同調しているからです。

母親が歌う場合は、それぞれのテンポやリズムが個性的だったので、揺れ方もバラバラになりやすい傾向がありました。

どうして音楽で落ち着くのか？

なぜ音楽やママの揺れが、赤ちゃんを落ち着かせるのでしょうか？

研究では、赤ちゃんが「音」と「体のリズム（揺れ）」をセットで感じることで安心感が生まれるのではないかと考えられています。

たとえば、ママがCDに合わせて赤ちゃんを一定のリズムで揺らすことで、赤ちゃんは**「聴覚（音）＋触覚（揺れ）」という２つの感覚で、同じリズムを感じる**ことができます。この“リズムの一致”が、赤ちゃんの不安や興奮を鎮めるのに役立っているようなのです。

育児へのヒント：音楽と「揺れ」を見方にしましょう！

では、これを家庭での育児にどう活かせるのでしょうか？

① 赤ちゃんがぐずったら「歌って＋揺らす」

ママが歌ってあげながら、軽く左右に揺れる・膝を屈伸するなどのリズムある動きをすると、赤ちゃんの気持ちが落ち着きやすくなります。

特に「歌って揺らす」は、お昼寝前や夕方のぐずりタイムにおすすめです。

② 疲れているときは「CD＋揺れ」でもOK！

「今日はちょっと疲れてて歌えない…」というときには、CDやスマホから音楽を流して、それに合わせて優しく揺れてあげるだけでもOK。ママの体は動くけど声を出さなくてよいので、省エネモードで落ち着かせられますよ。

実は、CD音楽の方がリズムが一定なので、赤ちゃんの心が安定しやすいという結果も出ているんです。

③ スピーカーを使うときは「音源が自然に感じられる位置」に

録音音声を使う場合は、スピーカーの位置に注意。赤ちゃんが「声は聞こえるのに、ママの口が動いてない」と違和感を感じることも。できればスピーカーはママのそばに置いて、赤ちゃんの視線とズレすぎないようにしてみましょう。

「歌う」ことは親子のコミュニケーション

歌や音楽は、ただ赤ちゃんを落ち着かせるだけではありません。親子の間のつながりを深める、大切なコミュニケーション手段にもなります。

ママの声を聴いて、肌でリズムを感じる体験は、赤ちゃんにとって安心の源。日々の中で少しでもそんな時間が持てると、お互いにとっても癒しのひとときになります。

最後に

この研究は、たった3分の「音楽＋揺れ」で赤ちゃんの心拍が落ち着くことを示しました。短い時間でも効果があることは、忙しい毎日を送るママたちにとって心強い発見です。

もちろん、育児は一つの方法でうまくいくものではありません。でも、音楽とママの揺れが“赤ちゃんの安心スイッチ”になるなら、それを取り入れてみる価値はありそうですね。

「今日もがんばった私に、お疲れさま。」そんな気持ちで、赤ちゃんと一緒に歌を口ずさむ時間を楽しんでみてください。