赤ちゃんとの生活には抱っこやおんぶが不可欠ですが、どっちを優先していいのかわからないという声を聞きます。またおんぶを嫌がる赤ちゃんや抱っこをしても落ち着かない子もいます。
この記事ではおんぶと抱っこの使い分けについて悩んでいるお母さんに、すっきりわかる解決方法を教えちゃいます!
抱っことおんぶの違いってなに?
昭和50年代には「前おんぶ」(園田, 2019)という謎の言葉も登場した抱っこやおんぶ。その実態とはどういうものでしょう。
抱っこはいつまで? おんぶはいつから?
赤ちゃんをお世話するには抱っこを避けることはできません。ヒトの赤ちゃんは授乳もあやすのもほとんど抱っこで行われます。赤ちゃんは自分の脚で歩けないので、移動させるのも抱っこですね。
ではその抱っこはいつまでするものでしょうか。
小学生になると抱きあげることはなくても、お膝の上で抱っことかギュッと抱きしめるという行為は続くでしょう。
でもアメリカで言われているように「そんなに抱っこしていると20歳になっても抱いていなきゃいけないよ」という脅し文句は当てはまらないでしょう。だいたい小学校入学までは時折抱っこの機会があると思っておいてよさそうです。
反対に幼い頃に抱かれた経験が少ない子は、小中学生になってもういちど抱っこから親子関係を構築し直すことがあるようです(*1)。
おんぶは首がすわってからでないとできません。首がすわった確認ができるのは生後4カ月の健診です。
昔の風習を調べていると、お宮参り(地方によって多少の差はあるが、概ね生後30-31日ごろ)には「おんぶして神社に行く」という地域があったようです(*2)。これはねんねこ袢纏のような赤ちゃんの頭部を覆い被すような衣服があったからできたことだと思われます。
筆者の感覚では、おんぶの終わりは抱っこよりは遅いように思います。小学生になっても甘えたいときや遊びの中でおんぶするというタイミングがでてくるように思われますので、ママやパパの背中はちょっと長く使えるように体力を残しておきたいものです。
*1:『子どもへのまなざし』福音館書店/佐々木正美/1998
*2:『児やらい』民俗民芸双書/大藤ゆき/1968
赤ちゃんへの影響
赤ちゃんにとってママやパパに移動させてもらうというのは、生命維持活動にとって必要なことです。でも抱っこやおんぶには単に生きるという以上の意味があるようです。
抱っこやおんぶは身体の接触をともないますが、赤ちゃんは”触られて+ポジティブな感情を持ち+言葉を聞く”と認知能力が向上するらしいということが最近の研究でわかってきました(*3)。
おんぶされたことがある人ならおんぶの時の背中の暖かさや安心感を覚えている方もいるでしょう。うまくフィットしておんぶできたときは、親もラクだし、子どもも安心するようで「ぴったりくっついてくる」という感想を口にする方も多いです。
欧米のおんぶは日本のものとちがってBack Carryという考え方が強いです。背負子(しょいこ)に乗っている状態を想像していただくと理解しやすいと思いますが、その状態と日本の昔のおんぶはだいぶ違うものだとイメージできます。
*3:「タッチで変わる、乳児の脳 -他者から触れられる経験が脳の学習力に与える影響-」
日本のおんぶは親と子が同じ世界を体験できるという他にはない良さがあります。また、ママの怒った顔や泣いている姿を見せないこともできるのです。でも繋がっている。
横浜のUmiのいえで素敵なおんぶのスライドショーを作りました。ぜひ観てください。(音がでます)
おんぶと抱っこのそれぞれのメリット・デメリット
抱っこにもおんぶにもそれぞれメリットとデメリットがあります。
抱っこのメリット
赤ちゃんのお顔を確認しながらあやせることでしょうか。抱っこはメリット云々言わなくても抱っこせざるを得ない状況がたくさんありますよね。
素手の抱っこでも脚をしっかり開脚させて、身体をぴったりくっつけてあげると安心して泣き止む赤ちゃんが多いです(*4)。首がすわらなくても縦方向で抱っこできますので、無理に横抱きを続けなくとも大丈夫ですよ。
抱っこ紐を選ぶ時にもスリングやへこおびのようなできるだけ赤ちゃんと密着できるものを選ぶと良いでしょう。
*4:もう怖くない! 新生児赤ちゃんの抱き方と、心地よく、泣き止ませる抱っこ
抱っこのデメリット
特に首がすわらないうちは頭部を支える必要があるために、両手がふさがってしまうことです。またお尻を掌(てのひら)で支え続けていると腱鞘炎になりがちです。
新生児の抱き方を実際にやってみましょう。鏡で見るとつい赤ちゃんに目が向きますが、ご自身の立ち姿勢をみてください。片方の肩が上がっていませんか。掌で支え持とうとしていませんか。もっとラクに身体の力を抜いてみましょう。抱く人が緊張していると、その緊張が赤ちゃんにも伝わります。赤ちゃんはとても賢いのです。
赤ちゃんを運搬するために作られた抱っこ紐は密着しない構造が多いのですが、落下を防止するために複数のベルトやバックルがついています。毎回のことになるとけっこう面倒になってベルトを適正に使わない方が多いのですが、危ないので全てのベルトをしっかりしめて調整しましょう。
おんぶのメリット
両手があく! まずはこれじゃないでしょうか。夕ご飯作りたいのに、掃除機かけたいのになかなか進まないとイライラしてしまいます。
上手に高い位置でおんぶができると、そのままトイレに行けるのも嬉しいです。
赤ちゃんとおんぶする人が同じものをみて世界を共有できることも、赤ちゃんの心の発達にはとてもプラスに働きます。
高い位置でおんぶができるのは、日本のおんぶ紐やへこおびです。ベビーラップは一部のおぶい方(セキュア・ハイバック・キャリーなど)なら高い位置のおんぶができます。
おんぶのデメリット
低い位置でおんぶされている場合は落下しやすくなる、お子さんが進行方向を見づらいということがあります。ママの背中しか見えなければなにをしているかわからないので、左右のどちらかを向いているしかありません。
低い位置のおんぶは、もともとアフリカの人々がお尻の上に赤ちゃんを乗せていたものを真似したところから始まっています。体型や環境によって人の運び方は違います。詳細はこちら『〈運ぶヒト〉の人類学にみる赤ちゃんの運搬』をご覧ください。
抱っことおんぶを使い分けるポイント
シチュエーション
抱っこは子育ての全般でおこないますが、おんぶは主に作業をする時に便利な方法です。もともとはおんぶは家事労働や農業などの作業と子守を両立するためにおこなっていたものです。
外出時:電車に乗るなどの移動時にはベビーカーがあるならスリングを肩にかけておくとたいへん便利です。「抱っこしてー」ですぐに抱っこできますし、抱っこに疲れてきたらベビーカーに乗せて移動を続けることができます。車移動の場合もスリングだと地面を擦らずに抱っこも降ろしもできます。
おんぶは赤ちゃんがずっと寝てくれているなら良いのですが、途中で降ろしたり授乳することは逆に手間が増えます。
おんぶに慣れている子なら、長い時間になっても大丈夫でしょう。
月齢・年齢
首がすわらない時期:抱っこしかありません。この時期はベビーカーも大きなものになりますので、外出はたいへんですね。スリングやへこ帯が使えると、荷物もコンパクトになるし階段やエスカレーターも使えるのでラクというママさんは多いです。この時期は特におうちでの寝かしつけにスリングを使う方は多いです。
首がすわってから:抱っことおんぶの両方が可能です。お家ではおんぶ、外出は抱っこと切り替えているママもたくさんいます。「今はおんぶを見かけないわね」といわれる年配の方が多いのですが、それは外出におんぶをしていないだけで家ではおんぶの方は健在なのです。30年くらい前は子育て=おんぶ一択だったのが、バリエーションが増えたということです。
3歳以降:もう抱っこやおんぶの道具はいらないでしょう、と思われるかもしれません。が、実は外出先で寝てしまったとか具合が悪くなって歩けなくなったということもよくあります。こういうときにはへこ帯が使えるととても便利です。抱っこもおんぶもできるし、スリングにもなります。へこ帯は災害時の避難にも使えます。
へこおびの抱っこバリエーションはこちらで紹介しています。(インスタライブのアーカイブより)
もしあなたがBabywrapを使えるなら、冬ならばショートサイズのラップをストール代わりに持っていると便利です。寒ければ首に巻いて、抱っこやおんぶもできますよ! 使い方はこちらのページで確認してくださいね。
抱っこやおんぶをもっと快適に!
肩こりしやすい方にお勧めの抱っこ紐
肩こりしやすい方はパッドに厚みがある北極しろくま堂の「キュット ミー!」をお勧めします。スリングは片方の肩にかけているので肩が凝りそうに見えると言われることがありますが、実際は背中で支えているので肩への負担はそれほどありません。逆に肩が痛いと思ったら、体重が分散されておらずうまく使えていないと思っていただいた方が良いです。
あとはへこおびをもっと簡単に使えるようにしたクロスタイプの「ハグリーノ」はいかがでしょうか? 帯が広く背中にパネルもあるので、赤ちゃんの体重が分散されやすいです。
SSCで選びたいなら、海外のサイトまでチェックしてみてはいかがでしょうか。海外のラップメーカー(たいていは中〜小規模のメーカー)はそれぞれ個性的な商品を出していますが、ベビーラップの柔らかい生地でSSCを作っているところも多いです。それらはママと赤ちゃんの体にフィットして使いやすいものが多いです。
腰痛持ちママにお勧めの抱っこ紐・おんぶ紐
腰痛がひどい方が最もラクに使用できるのは、生地にもある程度厚みがあるBaby Wrapです。赤ちゃんにも使用者にも何枚も布を重ねるのでホールド感は半端ないです。体全体で支えてるという感じがします。
初心者には難しく思えるかもしれませんが、キモノと同じで”慣れ”なので何度か練習してみましょう。使い方はyoutubeなどでも紹介しています。
抱っこして腰が痛くなる原因の多くは、抱っこしている間にずっと腰を反った姿勢になっている要因が多いです。抱っこ紐が緩かったり大きかったりして、赤ちゃんを落としそうな感触があるために、無意識のうちに自身の身体を反らせることによってそれを防ごうとしています。
まずはストラップやベルトなどをしっかり締めて装着してみてください。エルゴベビーなどを使用している方は、骨盤の上に腰ベルトを載せるのではなく、ウエストに締めてみましょう。そうすると赤ちゃんの位置がだいぶ上がってくると思いますが、それが正解の位置なのです。赤ちゃんの頭で足下が見えづらくなりますが、日本人は世界的にも小柄な方が多いので仕方がありません。そういう場合はおんぶで使うと良いでしょう(あるいはパパ専用にするとか)。
まとめ
ふー。だいぶ長い記事になりました。
抱っこもおんぶもどちらが良くてどちらかが悪いということはありません。過去にはおんぶは脚ががに股になるとか、抱きぐせがつくから抱かない方がいいなど、様々な言説がありましたがすべて否定されています。
科学的には抱っこやおんぶについての研究は途上であるものの、触れることや揺れることは赤ちゃんにとって良い影響があるようです。抱っこやおんぶは姿勢の取り方や脚の開脚の仕方などについて、科学的に証明されつつある段階です。
あ、そうそう。首がすわらない赤ちゃんを横抱きにしたり股に手を入れるのは1980年代半ばからはじまった「日本の文化」、都市伝説なので、医療的にはそれほど意味はないんですよ。
参考
園田, 正世. (n.d.). 地域に伝わるおんぶ具の変遷 : 出雲「子負帯」と天草「もっこ」を事例に. History of Back Carrying Tools Bequeathed : The Kooi-obi in Izumo and Mokko in Amakusa. 日本生活学会. Retrieved from http://hdl.handle.net/2261/00079673