2018年までアメリカで開催されていた抱っことおんぶのカンファレンス,”International Babywearing Conference (IBC)”の第1回目のレポートです。会場はポートランドのReed大学で開催されました。このReportは「店主の日記」という過去のブログに書いたものを再編集したものです。この記事は第2日目のレポートです。
このカンファレンスは4日間開かれ,メインは2日目と3日目です。
朝いつものように8時にロビーに集合。同じカフェで今朝はちょっとメキシカン風を食べます。パン類の他に子どもたちには果汁100%ジュースとミルク。アメリカは牛乳の種類がたくさんある上に表示がぜんぶ英語で書いてあるので(当たり前だけど!)何がなんだかわかりません。
朝ご飯を食べ終わり、子どもたちはシッターさんとキッズガーデン(?)に出掛けていきました。私とRさんは車でリード大学へ。
2日目に参加したセッション
The Recent History of Babywearing @ Student Union
現代のスリングは70年代にハワイのレイナー・ガーナーさん(女性)が考案しました。彼女はチャレンジャーでシーツでスリングを作ったり(参加者の何人かは実際にベッドシーツでスリングを作った経験があった)海に入れるスリングやリングを取り付けたスリング(いわゆる今のリングスリング)などを考案しました。シアーズ博士はそのデザイン(たぶんリングスリング)の権利を彼女から買ったということです。シアーズ博士はNojo社と強いつながりがあるそうです。日本ではベビースリングはN社の登録商標になっています。なんと、(理由はよくわからなかったが)Baby wearingという言葉を使用するのもシアーズ博士の許可が必要らしいです。そういう一般的な言葉を商標にするのってできればやめて欲しいなあと思います。混乱が大きいです。アメリカ以外の国なら大丈夫みたいですが。
(注:レイナー・ガーナ—さんは女性だと書いてありますが,実際は男性で小児科医です。また,ベビースリングの日本での商標は,正しくは「オリジナルベビースリング」です。Baby wearingという単語の使用については,当時この場で言われていたものであり,2021年ではそのようなことはありません。)
アメリカでのスリングの歴史は以下のとおりだとのこと。
60年代、ピースコー(Peace Corps:ケネディ大統領により創設された平和部隊。教育や農業などの分野での発展途上国援助を目的とするアメリカの長期ボランティア派遣プログラム*Rさん注)でアフリカに行きスリングを見た。→誰がアフリカに行って持ち帰ってきたのかは不明。
当時アメリカの人々もBWを求めていたので小さなムーブメントが起こったそうですが、そのときは浸透しませんでした。しかしながら一連の運動によりアメリカでもBWができるんだという感覚をつかむことができたそうです。なによりBWすると赤ちゃんがぐずらず、子どもの欲求に答えながら自分の用事ができるという発見がありました。
ただし、BWは全ての人にとって心地よいものではないという認識もあります。
→これについては私の推測ですが,アメリカでは赤ちゃんを抱っこして育てる文化がなく、親子が肌を密着させている状態を「気持ち悪い」と感じ取る雰囲気があるからではないかと考えられます。
70年代にはいるとハワイでレイナーさんがスリングを作り始めています。1979年のアメリカの雑誌で他の文化圏の子育てが紹介され、BWが子育てによいと主張されている記事が掲載されました。
現在アメリカで大手と言われているスリング会社が勃興したのは、ほとんどが80年代。
セッションのあいまに大学構内でネットにつないでみました。Oh…IDとパスワードが必要みたい。ってことは大学でもホテルでもネットは無理です。どうしよう。
Babywearing Safety @ 126
このセッションにはメーカー(生産業者)のみ4社が参加しました。アメリカのベンダー(業者)はなんと400社。主に縫製をどうしているとか、強度はどうとか、そんな内容でした。
というか、日本でベビースリング協会が設立されて客観的な強度試験を全社が受けているのだから、アメリカでもそうすればよいのでは? と思うのですが。彼女たちからも「その制度はすばらしい!」という賞賛の声が上がりましたが、400社もあるとまとまるのが難しいようです。そういう意味では日本は国土が狭くてよかったです。
アメリカのスリングはそういうわけで、客観的に共通の強度試験を受けるというシステムがありません(2006年現在)。購入する場合は購入する人それぞれが細部まで吟味することが大事になります。ワタシ的にはそういうのって買うときにはかなり面倒だと思いますがいかがでしょうか。
Babywearing Research @ 103
Jeniがスピーカー。(JeniさんはTBWの創設者)
Jeniはオーストラリアの大学院で心理学を研究しています。ずばりBWについての研究です。ところがBWの研究って世界中でほとんどないそうなのです。あるのは古い研究が数点だという。
代表的なのは生後3wから16wの赤ちゃんを調査したもので、BWしている赤ちゃん群はBWしていない赤ちゃん群に比べて一日に泣いている時間が約1時間少ないというものだそうです。
しかし、この調査についても母親の子育てに対する姿勢や考え方がもともと違っている群なのかもしれないし、それぞれのグループの社会的背景がまったく同一ではないので、ぜったいに正確な調査とは言えないそうです。
心理学の研究って難しいなあ。こういうのはどうだろうか。数名の赤ちゃんを対象にして、スリングをしている時としていない時の脳波の状態を調べる。何日間か、同じ状況で。α波が出るとかなんとか、科学的に証明できないものだろうか。
でも、BWしていると赤ちゃんが落ち着いた状態になっているということは使用者ならほとんどが感じていることだと思います。それを数値で表すのが難しいようです。
がんばれ Jeni!
次はキャロルさんのおはなし。彼女はコロラド大学の文化人類学の先生です。
新生児の赤ちゃんの姿勢として、
- 座っているような状態(リクライニング)
- たて抱っこしている状態
- 水平に抱っこしている状態
の3つのやり方の中でどれが良いかという結論が「出ていない」そうです。臨床結果はなにもない、とのこと。スリングは歴史的観点からみると、かつてはそこにあった布を利用して身につけていました。布を利用したのは赤ちゃんをリクライニングさせる必要があったから。
人間のお乳は脂肪量が少ないから常に授乳するようにできていて、人間の赤ちゃんは動物のように立てないから常に抱っこすることが普通なのだ。
また、現代の育児の考え方として同じ「母乳育児」でもアッパークラス(経済的社会的立場が上の方の暮らしぶり)と単に昔からのならわしというか流れの中での母乳育児は意識が違うと言っていました。そうですよね,うん。
特にアメリカのように、母乳や抱っこなどの人間の根源的な育児行動をいちど否定した文化圏では、アッパークラスのママが母乳育児をしようと考えるならば、よほど勉強してそういう団体にコミットしてという事前の行動があるはずです。後進国のBWと私たちが今薦めようとしているBWでは状況や意識がまったく違うのですね。やってることは同じですけどね。
そういう意味からも伝統ってすばらしいと思いました。昔の人はBWすると赤ちゃんがなんとなく落ち着くってことを感覚的にわかっていたのですね。日本の人たちも。
Babywearing Physiology @ 103
続いてもキャロルさんがスピーカーです。「さっきのセッションで話しちゃったから、ネタがないわ(笑)」と軽いジャブから入ります。
- (欧米の)子育ては産業革命以降は専門家から習うものになった。赤ちゃんを抱っこしていると[抱っこしていると25歳まで抱っこしなきゃいけなくなるわよ]と今でも言われるらしい。おいおい、そりゃ言い過ぎじゃないか?
- 心理学では20世紀から甘やかしは甘えた子になると言われるようになり、甘えさせない育児が励行された。子どもの自立を促すためには子どもに手を掛けず、また消費を支えるような生活(紙おむつ・人工乳)が良いとされてきた。
- スオドリングされた赤ちゃんは精神的に安定し、反応も早い子になると言われている。ここで話題になったのは股関節脱臼についてだ。欧米人には股関節脱臼が少ないが、やはりスオドリングをするなら上半身だけにした方が良いだろうというのがキャロルの意見。
- 抱っことベビーカーでの酸素飽和度への差異はない。
- BWをしている親について。親の生理学に対する研究はない。現在のところ科学的に証明できない。
2日目を終えて
ところで昼食は毎日学食で食べています。ここはけっこうおいしかったです。ハンバーガーもその場で焼いてくれます。注文を受けてからハンバーガーを焼くお店はアメリカにはたくさんありました。マクドナルドには行かなかったけれど、わたし達が入ったお店はすべてそうでした。学食のバンズもけっこう美味しいと思いました。
この日はけっこう頭が疲れました。ホテルに帰って、子ども達と夕食へ。子ども達はプールに入ったのでかなり疲れていて、まん中と下の子はレストランに入ったとたんに寝てしまいました。
子ども達が全員寝てしまった後、1ブロック先にあるセブンイレブンにいってビールとバナナを買いました。私がビールを飲みながらクールダウンしていると、桃太郎がおきてバナナを食べました。夕食抜きでお腹がすいたそうです。で、すぐにまた寝た。・・・そのまま朝まで。
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