『赤ちゃんの手とまなざし ことばを生み出す進化の道すじ』(竹下秀子著 岩波書店 2001年)はすでに絶版になってしまっていますが,赤ちゃんの発達について類人猿と比較しながらわかりやすく紹介しています。
この記事では視線や指,手の発達がその後の他の発達にどのように関係していくかを,この本を元にご紹介します。

ヒトの赤ちゃんが他の類人猿と違う大きな点は仰向け寝ができることです。仰向けになって過ごす時間があることで,「見るー見られる」という状態がうまれます。
ヒトはどのようにして人になっていくのか,ということをこの本で学んでいきましょう。
本文中のグレーの文章は本に書かれている内容ではありません。付け足し情報です。

赤ちゃんの手とまなざし 岩波書店

姿勢を保つ・移動するまで

歩けるようになるのは総合的な発達のおかげ

胎内の無重力に近い状態で育った赤ちゃんは,生まれた時に自分の体を「重っ!」と思ったでしょうか。宇宙飛行士も地球に帰った時には筋肉が衰えて自分の体を支えられなかったりしますよね。赤ちゃんも産まれたときに重力に従って落ちるという感覚はわかっていそうです。
赤ちゃんの姿勢を急に変えると不安定な姿勢から抜け出そうとしていろいろな動きを見せます(p15)。これを姿勢反応といいます。いろんな姿勢をとらされたときに(自分では支えることはできないものの)手を出したり脚で支えようとするのは,骨や筋肉だけなく,中枢神経や視聴覚,末梢神経が深くかかわっています。

赤ちゃんの姿勢反応が発達的に変化していくのは,姿勢反応にかかわるこれらさまざまな要因が発達し,それらが総合的に連関し,統合された結果である。

『赤ちゃんの手とまなざし ことばを生み出す進化の道すじ』(竹下秀子著 岩波書店 2001年)p17

不安定な状態にさせられたときに,赤ちゃんはそのときの最高の姿勢運動機能を発揮して対応しているそうです。(危なかしい状態にさせられると,落ちないようにいっしょう懸命頑張るという意味です。けなげだなぁ。)
重力に対して自分の体を支え,なおかつ移動できるようになるまでには生まれてから一定の期間が必要になります。だいたい1歳過ぎに自力で歩けるようになる子が多いですが,それまでには身体の総合的な発達があるんですね。

歩き初めが遅いことにお悩みの方もいらっしゃると思いますが,病気でなければいずれ歩くのでご心配はいらないと思います。平均的に1歳過ぎに歩くといってもみんなが1歳ジャストで歩くわけではなく,それまでの運動経験や赤ちゃん自身の体重などでもかわってきます。下のイメージ図では360日頃をピークにしてみましたが,このカーブが実際はどうなっているか不明だし,もしかしたら赤い部分のほうが面積(人数)は多いかもしれないですよね。平均というのははそういうことです。

つたない絵でごめんなさい!

ところで,ヒトの赤ちゃんが仰向け寝ができるのは他のサルと違う特徴だと書きましたが,仰向け寝やおすわりは手を自由にできる姿勢とも言えます。手で身体を支えないといられないなら,自由になる手を使う機会が減りますが,人の赤ちゃんは仰向け寝ができることで手が自由に使える時間が圧倒的に増えます。

モノが持てるというのは大事なこと

サルもヒトも親指と他の指が向かい合っていて,何かを掴める形に進化しています。サルとヒトでは①モノに手を伸ばし→②つかみ→③遊ぶ(取り扱いをする)ができるようになる順序はほぼ同じだそうです。
手を伸ばす行為(リーチング)はいろいろな研究者が研究をしています。モノを取り扱うというのはとても高度な技能ですし,その最初の行為がどう起こるのかというのは興味深いテーマだからです。モノに手を伸ばす行為は,手を床につけて身体を支えようとする姿勢反応がでてからだそうです。前述したように,それは赤ちゃん自身が手で身体を支えられるのではなく,不安定にされたときに手や脚がでるという反応です。

手はまず,重力に抗して自分の身体を支えるはたらきを獲得し,そのあと環境世界のさまざまな物に自分からかかわっていくためのはたらきを備えるようになるのである。

『赤ちゃんの手とまなざし ことばを生み出す進化の道すじ』(竹下秀子著 岩波書店 2001年)pp.21-22

抱っことしがみつき

両手の指先から「腕全体を使って赤ちゃんを抱きかかえるのはヒトだけ」かもしれないのだそうです。赤ちゃんを抱っこする時の負担は(比較しているサルとヒトとのなかでは)ニホンザルが一番軽くて,次にチンパンジー,ヒトだそうです。ヒトの赤ちゃんを抱くのは負担が大きく,故に現代では抱っこ紐がいろいろあるわけです。また,傍らに寝かせておけて,仰向けになったままでも交流できるというワザを進化させてきました。それによって,両腕・両手にかかる負担を笑顔や声かけでの交流に振り向けられるようになりました。

抱く行為は赤ちゃんに安心感を与え,身体交流やあやしなどの意味を含むものですよね。
サルはしがみつける体毛があるし,赤ちゃんを抱く(おぶう)ことの負担が小さいです。一方,ヒトの母親は赤ちゃんをあやしたり育てるのに,両腕・両手だけの実際的な抱き行為だけではなく,表情と声かけさらに「おもちゃ」まで交えて赤ちゃんぜんたいを抱いているという状況にもっていくことができました。赤ちゃんがいる周囲全体が抱っこしている状態ー身体交流やあやしになるというわけです。

ジェネラルムーブメントとU字型変化

新生児をみていると,手足を無意味に動かしていませんか? これは赤ちゃんの自然な動き「ジェネラルムーブメント」と言います。異常ではないので大丈夫ですが,もし落ち着かせたいなら,上半身だけタオルで巻くという方法もあります。
各種の反応は新生児のうちはみられても,一度消滅して,しばらくすると再び出現することがあります。時間経過とともに一度みられた反応が,しばらく後にできなくなって,その後に条件さえ整えばまたできるということをU字型変化というそうです。

有名なのは自動歩行です。新生児をうまく前傾に抱っこするとまるで歩くかのように脚を左右交互に出します。この反応はしばらくするとなくなったように見えるのですが,水の中にいれるとまた歩く動作をします。(ご家庭で真似はしないでくださいね)

 

未熟な状態で生まれるヒトの赤ちゃんは,生き延びるためにこの地球環境や(家族)社会に対応するために最低限のことはできるようになっていると考えられています。生まれたばかりの赤ちゃんでもほほえむことがありますが,これも「新生児微笑」という反応です。反応だとしても笑ってくれたら親は嬉しいですよね。「かわいい〜」と思うでしょう。このような生まれつきの反応は育ててもらいやすくなることから,生存に必要な反応だと考えられています。「輸送反応」もその一つです。赤ちゃんを落ち着かせる輸送反応についてはこちらの記事をみてください。

このようにヒトの赤ちゃんは自分に対して視線を集中させるための準備をして生まれてきます。まず「見られる」状態をつくってから,見ている相手に対して注意を引かせるようになっているようです。
赤ちゃんを傍に仰向けに寝かせれば赤ちゃんの小さいからだがぜんぶ見えることでしょう。小さい手が動いたり,微笑んだら親は赤ちゃんを見ていたくなります。疲れていて寝不足でたいへんでも,つい注意を向けたくなります。
ヒトの赤ちゃんは生まれてすぐに「見る」ー「見られる」関係をつくるように準備されているのです。


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竹下先生のお考えでは,「抱き上げ」なくても傍らにいて声をかけたりあやすだけでも抱っこしているのと同じような作用がありそうだ,ということですね。確かに赤ちゃんを抱っこし続けるのはたいへんなことです。肩や腕が疲れます。
赤ちゃんとしては,直接身体に触れてゆらゆらされる方がいいときもあるでしょうけれども,いつも要求に応えるのも難しいですよね。

北極しろくま堂では,赤ちゃんや子育てに関するさまざまな知見をしっかり理解し,親御さんと赤ちゃんの役に立つよう製品作りやアフターフォローに取り組んでいます。
ここまでやっている抱っこ紐の会社はまずないと思うのです…!
あと,大学のレポートなどでこの記事を見つけてラッキー!と思っている学生もいると思いますが,コピペはだめですよー。理解のための参考にしていただければ幸いです。