助産師さんに聞く、育児のヒント 前編

育児をしていて疑問に思うこと、不安に思うこと、誰にもきっとあることかと思います。そんな時に相談できる人として「助産師さん」という存在がいます。でも、助産師さんがどんな人なのかわからない、助産師さんにどうやって会いに行ったらわからない、という方も多いのではないでしょうか。

そこで北極しろくま堂メールマガジン編集部では11月と12月の2ヶ月に渡り、助産師さんに育児のヒントをお伺いします。

お話をしてくださったのは、静岡市で助産院を開業されている近藤亜美さんです。


助産師さんってどんな人?

Q. 基本的なお話ではあるのですが、まず、助産師さんはどんなお仕事をしているのでしょうか?

「助産師」と聞くと、一番はじめに思い浮かぶのは出産に立ち会って赤ちゃんを取り上げる人というイメージかと思います。もちろん、それも助産師の仕事のうちの一つではありますが、実際、助産師の仕事は多岐に渡っていて、人によって仕事の内容や活動の場も異なります。

例えば、病院などで勤務している助産師は勤務助産師といいます。出産のお手伝いや入院中のお母さんと赤ちゃんの健康管理や育児指導が主な仕事です。

病院などで勤務していない助産師はひとくくりに「地域助産師」等と呼ばれます。 これらの助産師は開業届けを出している人とそうでない人がいます。

地域助産師には「新生児訪問」(無料)等の保健行政の一翼を担う仕事や、オーダーを受けて訪問する(有料)場合、母乳育児のケア、育児相談、骨盤の指導、抱っこやおんぶの講座、母親学級や子ども向けの命のはなし等それぞれに得意分野があります。

もちろん助産院を開業してお産を取り扱う助産師もいます。 

私は助産院を開業していますが母乳の相談やマッサージ、育児相談等を受ける産後ケアを専門にしている助産師です。 

あと、看護師や助産師を育てる教育の分野にいる助産師もいます。

出産や赤ちゃんのことだけでなく、女性の生涯にわたる体や心の健康全般をケアする専門家が助産師だと教育されます。

Q. 静岡市には全国的に見ても地域助産師の活動が活発と聞きました。それはどういった理由からでしょうか?

A.  はっきりとしたことはわかりませんが、精力的に活動してこられた先輩助産師が多いことも理由の一つだと思います。

積極的に活動している方がいると「あの人のようにがんばってみたい」という気持ちになりますよね。それに助産師会の中の雰囲気がよく、互いに助け合えるシステムになっていて、一人ぼっちじゃないっていうのも大きいです。

例えば静岡市では、助産師だけでお産を介助する時は、万が一に備えて必ず2人以上助産師がつきます。緊急事態が起きた時に、少なくとも処置をする人と救急車を呼ぶ人と2人は必要ですよね。なので、メインの助産師が「今度お産があるからよろしくね」って第一、第二、第三候補くらいまで決めています。その他に緊急事態が起きた時にすぐに大きな病院に搬送できるように、助産師会が総合病院と契約してくれています。何重にも守られていて、お産に集中できる環境が整っているんですね。きちんとシステムが整っているので開業しようと思う助産師も増えますし、そうすると助産院で産んでみたいと思うお母さんも増えますね。知り合いが助産院で産めば、「私も次は」と考えやすくなるのではないでしょうか。

Ami助産院はどんな助産院?

Q. Ami助産院は産後のケアがメインと聞きましたが、こちらはどのような助産院なのでしょうか?

A. 産後のケアを主におこなっているので、特に母乳のことで相談に来てくださるお母さんが多いです。産後のお母さんにとって、母乳に関する不安が軽くなったり、自分なりの母乳育児ができるようになったりすると、育児を楽しめるようになることが多いです。だから産後はおっぱいのことは避けては通れないと思い、これを専門にするようになりました。

おっぱいマッサージをする布団が敷かれています。

おっぱいのこと

Q. 母乳育児で悩まれる方は多いと思います。もう少し詳しく聞かせてください。

A. 赤ちゃんが生まれたらおっぱいをあげるというのは自然なことのように思いますけど、実際そう簡単にはいかないんです。

実は人間の赤ちゃんはとても未熟なので生まれてすぐに上手におっぱいを飲めるとは限らないんです。

それにお母さんの方も最初から上手に授乳できるわけじゃないんです。でも生まれたら赤ちゃんはおっぱいを自然に飲むものだと思っている人が大多数だと思います。でもうまくいかなくて悩んでしまうお母さんが多いです。

授乳がうまくいくかどうかということについては、まず母乳が足りているか不安になる人がとても多いです。 そして胸が張ったら痛いし、上手に飲んでもらえなかったら傷つきます。しかもうまく授乳できないと授乳回数が頻繁になって、“寝るな拷問”があるわけですよ(笑)。ちょっと休んだかなと思っても赤ちゃんに起こされてしまう。3時間寝られたらよかったって感じなんですよ。

それが蓄積すると体の疲労になって、ストレスになって、赤ちゃんがかわいいのかわからなくなってくる。本当はかわいいのにそう思えない方に追い込まれてしまうんですね。

これを解決するために、まず母乳のことをクリアします。すると次のステップに行けるんです。母乳をやめてミルクになるにしても「私はこれでいいんだ、母乳じゃなくてミルクでいいんだ」と思えると子育てがうまく転がりだす傾向にあります。

だから必然的に助産師は母乳のケアを避けて通れない、と思うようになり母乳のケアにハマりました(笑)。

お母さんたちからも同業の助産師さんからも「亜美さんはおっぱいの助産師さん」って思われています。だけど、たくさんの人がおっぱいでつまずくのでそれをきっかけにしているだけで、私が本当にやりたいことは、「赤ちゃん産んでよかった」とか、「この子だったんだ、私の子は」っていう、“愛着”がきちんと作られていくお手伝いをすることなんです。

Q. 「乳腺炎」という言葉をよく聞きますが、具体的にはどのような状態なのですか?

A. 母乳には通り道があって出口があります。どこかが詰まってしまって痛くなることもあるし、詰まっていないけれど、生産量と排出量のバランスが悪くて痛いこともあります。詰まってないけど溜まっている、循環不良の状態です。

乳房は女性の体のど真ん中にあるとても繊細な部分なのでおっぱいの調子が悪くなると痛みや高熱が出ます。高熱によって頭痛や悪寒、腹痛など全身症状が出ます。そしておまけに、ものすごくメンタルに響くんですよ。気分が落ち込みます。母乳のこと以外考えられないし手につかなくなる人もいますね。

Q. おっぱいが痛い時でもおんぶをしたいというお問い合わせをいただくことがありますが、どのようにアドバイスされていますか?

A. 痛い時には無理をしないほうがいいと思います。その上でアドバイスするとしたら、痛い部分にひもが当たらないようにハンドタオルを活用してもらうことでしょうか。(写真参照)

痛い部分にタオルを挟みます。前屈みになると挟みやすいです。

チベタンの場合は、内側から通した方が当たりにくいと思います。

おんぶひももへこおびもチベタンフィニッシュの場合は内側から通すのがおすすめ。

Q. 母乳がうまく出なくて悩まれる方もいますね。

A. 母乳の量についても、体のことなのでメンタルとつながっています。あまりに量ばかりにこだわってしまうと、かえって出なくなってしまうこともあります。母乳と一言で言っても、ひとりひとり違うのでとても繊細なんです。

でも体は使えば発達するんですよ。正しい飲ませ方を知って自分の脳を刺激して反応を起こさせるとだんだん軌道にのってきます。そういう正しいやり方を知らなかったら、いつまでたっても悩みは解消できません。だからこそ助産師に相談して欲しいです。

Q. 最近は「卒乳」が話題に上がることも増えてきました。その点についてはどのようにアドバイスされていますか?

A. そうですね。母乳育児の終わり方について悩まれる方は多いですね。これは私の意見ですけれども、与える側であるお母さん主導でタイミングを決めればいいと思っています。母乳に関しては、4歳でも5歳でも子どもが欲しがるなら最後まであげなさいって説もありますし、あまり長くないほうがいいという専門家もいますし、様々です。それらを踏まえた上で、私は与える側のお母さんに主導権があるべきだって思っているんです。例えばお仕事復帰するからもう母乳はあげないって思う人はそこでやめればいいし、お仕事するけど母乳はあげたいという人は続けたらいいと考えています。

仕事復帰するからおっぱいはやめなければいけないと思うお母さんは多いですが、そうばかりではないんですよ。授乳間隔が12時間以上開かなければそう簡単には母乳が止まったりはしないと言われています。もちろん体質にもよりますし、頻繁に飲まれるよりは量が減っていきますが、完全に止まるという程ではありません。だとしたら、朝あげて、仕事終わってまたあげてとすれば続けられますよね。

ただ夜中に授乳することもあるので、続けたいけれども夜中に授乳するために寝不足になり仕事に支障が出るからやっぱりやめますっていう人もいます。それもお母さんの選択です。

あとはママの心理だと、仕事に復帰する時に子どもに対して罪悪感を抱く人が多いですね。後追いする子どもを置いてお仕事に行ってごめんね、という気持ちです。その時にもし子どもが、母乳が大好きだったら、「この子が大好きな母乳だけは残してある」と思うと、それがお母さんの心の支えになることがあるんですよ。だから復職を理由に母乳やめたいならもちろんそれは間違いではないですし、やり方を説明しますし、やめても構わないのです。でももし母乳をやめるのがかわいそうだなとか、母乳まで取り上げてしまう自分を責めてしまうならば、とりあえず仕事復帰の時は母乳を残しておくという方法もあります。仕事してみてしんどかったら後でやめるって方法もできますよという情報提供をしています。

すべてを白黒はっきりさせなくても、うまくグレーを残しておくという方法や考え方もあるよということを提示できたらと思っています。

Ami助産院では、おっぱいをあげ終えた親子に「母乳育児終了証」を出して、お母さんのそれまでのがんばりをねぎらっているそうです。

いかがでしたか?

次回は育児アプリ、ワンオペ育児、抱っこひも・おんぶひものこと、お母さんや妊婦さんに向けたメッセージなどをお送りします。

お楽しみに!

次号予告

今月に引き続き、助産師の近藤亜美さんのインタビューをお送りします。育児アプリのこと、ワンオペ育児のこと、助産院のススメなど興味深い内容が盛りだくさん!ぜひ妊婦さんにも読んでいただきたい内容です。

次号はこちら(←クリックしてくださいね)。

編集後記

10月は雨の日が長く続き、また台風もやってきて天候が不安定でしたね。台風で被害を受けられた地域のみなさまに心からお見舞い申し上げます。
10月24日、地元静岡にて商品撮影を行いました。男の子と女の子ふたりの赤ちゃんモデルにご協力いただいたのですが、ほぼ同じくらいの月齢でも男女の抱き心地は違いますね。男の子はがっしりと骨格がしっかりしている感じ。対して女の子はマシュマロのようにやわらか。男の子のママは女の子の抱き心地にびっくりしていました(男の子が6ヶ月で10キロという大きめの赤ちゃんだったということもありますが)。男の子と女の子では匂いも違う!という話もよく聞きますね。こんなに小さくても男女の違いはあるのだなぁと思います。
ふたりともぐずらず撮影におつきあいしてくれてありがとう。写真のできあがりが楽しみです!
SHIROKUMA mail editor: MK②

EDITORS
Producer Masayo Sonoda
Creative Director Mai Okai
Writer Mai Katsumi, Masahiko Hirano
Copy Writer Mai Katsumi, Masahiko Hirano
Photographer Yasuko Mochizuki, Yoko Fujimoto, Keiko Kubota
Illustration 823design Hatsumi Tonegawa
Web Designer Nobue Kawashima