助産師さんに聞く、育児のヒント 後編

前編の11月号に引き続き、12月も助産師の近藤亜美さんに育児のヒントをお伺いします。みなさんのお近くには気軽に悩みを相談できる助産師さんはいますか?普段気になっていてもなかなか聞けないことを、北極しろくま堂がインタビューしてきました。今月は、妊婦さんのうちから知っていただきたいお話や、現代の育児ツールについて、抱っこひもについてなど情報もりだくさんです!


妊婦さんと助産院

Q. 妊娠中におっぱいのことで気をつけたほうがいいことはありますか?

A. ある程度母乳が出る仕組みなどを知識として知っておくことは自分にとって助けになります。そしてもう一つは授乳をするための準備をしておくとよいです。

母乳が出始めることを「乳管開通」というのですが、母乳というのは地下水脈から水が湧き出てくるようにじわじわと出始めます。母乳が出てくる穴の付近が固いとスムーズに出て気にくいことがあるので、妊娠中から乳首の先端を丁寧にマッサージして、出産後母乳が作られた時に流れやすい状態に準備しておくのです。ご自身でマッサージすることもできますし、助産院でやってもらうこともできます。

Q. 妊婦さんのうちから助産院にいらっしゃる方はいるのでしょうか?

A. いらっしゃいますよ。本当は出産前に一度助産院に来ることをおすすめします。

例えば妊娠中に母親学級に参加されるお母さんは多いと思いますが、1回聞いただけでは理解しきれないんですね。それなので、もう一回助産院に来て復習すると、「そういうことだったんですね!」ってみなさんおっしゃいます。

他には、出産前にしておくべき買い物のご相談にも乗っています。「チャイルドシートはどんなもの準備している?こういうものがいいんだよ。」といった具合です。その時に抱っこひもについてお話しすることもありますよ。さらには「うち犬を飼っているんだけどどうしよう」といった相談を受けることもありますね。そういった個人的な相談の後に、赤ちゃんのお世話のことや、おっぱいの説明などをあわせてしています。

助産院は産後に行くところというイメージがある方が多いかと思いますが、赤ちゃんが生まれる前の寝不足でない余裕の時に産後の話を落ち着いて聞いておいてくださると、生まれてからの安心感が違います。一度会ってお話ししておくと生まれた後にも来やすいですよね。

「おっぱい痛くなったり、子育てにつまずいたら行ってもいいですか?」とよく聞かれるのですが、子育てをしたことがない人が最初からうまくやるといのは難しいと思います。だからはじめから来てね、とお伝えしています。

現代の育児について思うこと

Q. スマートフォンの普及で育児関係のアプリも様々出てきています。例えばおっぱいの専門家から見て、授乳アプリについてはどのように考えていますか?

A. 確かに使っている方は多いですね。授乳アプリについていうならば、初めて授乳をする人にとっては授乳間隔の目安を知るきっかけになって便利なのだと思います。タイマーで授乳するタイミングと時間を教えてくれて、記録まで残りますしね。

でも子どものおっぱいの飲み方は毎回一緒ではないんですよ。お腹が空いていてごくごく飲む時もあれば、おしゃぶりのようにただくわえて満足する時もあります。同じ分数飲ませても実は子どもの要求は違います。そういう違いを感じ取る力がアプリを使ってくると弱くなってくるように感じています。子どもの様子よりもアプリの画面に集中してしまうんですね。

あとは、アプリで授乳を管理しているとスマホに1日の流れが全部記録として残るので、毎回きっちり記録しなければと完璧を追求してしまうお母さんもいます。そこに1回でも「虫食い」が出てしまうと「きちんとやっていないママ」になってしまったように感じるようです。

そこでAmi助産院に来てくれたお母さんには「スマホ使わないでやってみよう」とお声がけしています。そうすることで自分の体の感覚や赤ちゃんの様子に集中できますし、一度虫食いを作ってしまうと「漏らさず記録しなければ」という強迫観念からも解放されます。アプリがなくても授乳ができるんだ、ということにも気づけます。

Q. 「育メン」という言葉が広まって久しいですが、反対に最近は「ワンオペ育児」という言葉も聞かれるようになりました。実際のところどのように感じていますか?

A. 実際に一人で育児やらざるを得ないような状況にいらっしゃる方ももちろんいます。しかし、子どもに手を出されたくない、自分で全部やりたいというメスの心理でそのような状況を自ら作り出しているのかな、という方もいらっしゃいます。そうだとすると、メスの気が立っているので、お父さんの側からするとどこから手を出していいかわからないようです。お父さんは育児を手伝わないわけではなくて下手なので、何かやっても裏目に出てしまいます。自分が手伝っているつもりでも、気が立っている妻をうまく収められないということもあるのではないかと思います。

北極しろくま堂商品について

Q. Ami助産院では北極しろくま堂の商品を勧めてくださっていますが、あらためてその理由を教えてください。また使用した方の反応はいかがですか?

A. 北極しろくま堂の商品をおすすめしているのは、やっぱりいいものだと思うからです。赤ちゃんを抱くということの本質を理解した上で、それを助けるツールとしてきちんと研究がされています。だから使ってみるとお母さんも子どもも楽です。そしてただ商品を作って売ることだけではなく、ベビーウェアリングのよさを日本のお母さんたちに伝えたいというコンセプトを会社自体が一生懸命伝えようとしている姿勢が好きです。今この情報社会の中で、ものを売って販売していく会社だけれどそれを伝えようとする努力をしていることに敬意を表しますし、教えていただいていることはたくさんあります。

それなので、助産院に来たお母さんたちにおすすめしたり試着してもらったりしていますが、正直反応は様々です。そのよさが伝わる人もいればそうでない人もいます。

スリングもへこおびも少し練習して慣れればそれほど面倒ではないのですが、とにかく装着が楽な方を優先順位に取る人もいます。コンパクトで、気軽に洗濯できるなどのメリットをお伝えしていますが、響く人と響かない人がいるのは事実ですね。

第一子の時は買わなかったけれど第二子の時はやってみたいという方もいらっしゃいます。第二子の時の方が子育てに余裕があるからでしょうか。

A. Ami助産院さんでは特にへこおびをおすすめしてくださっている印象がありますが、いかがでしょうか?

Q. そうですね。へこおびが多いかもしれません。へこおびをおすすめしたくなるポイントとしてはいろいろな使い方ができることと、扱いが楽なことですね。抱っこもおんぶもできますし、工夫次第でスリング状にも使えます。気軽に洗えるところもいいです。

それに最近のリュックサック背負うお母さんが多いので、リュックが背負いやすいという点でもへこおびは評判がいいです。

スリングを勧める場合のポイントは「かわいい」ですね。赤ちゃんが入っている時の見栄えがとてもかわいいです。ファッション性が高いものが好きそうなお母さんにはスリングを最初に紹介して、そのあとにへこおびを紹介します。実用性重視の方かな、と思った時はへこおびが先です。お母さんの服装や持ち物、雰囲気を見て先におすすめするものを決めています。

お母さんたちにメッセージ

Q. 今子育て中のお母さんたちに接していて、こんなところがすてきだなと思うところはありますか?

A. いつもおしゃれでいようとか、子どもにこんなことを習わせたいとか、自分のやりたいことや目指す姿をしっかり持っているところですね。子育てしながらも自分のやりたいことも実現しているパワーはすごいです。

昭和の時代は子どもを産んだら仕事もやめて、家に入って「母」に専念することを求められていたようなところがありましたが、今は時代が違います。私自身も、何もかも捨ててお母さんにならなくていいんだよってお母さんたちには伝えています。

今のお母さんたちは多くの顔をもっていますね。母、女性、妻、娘、会社員…どのシチュエーションでどの自分でいるかをうまく使い分けているなと思います。そして価値観が多様化してきているなとも感じます。お母さんによって、大切にしたいことやりたいことが違って、多くの情報の中からうまく選択して自分の生活、人生を豊かにしようとしている姿はすてきですね。

Q. 最後に助産院に行ってみたくなるような(笑)メッセージをお願いします。

情報化社会にあって、何かあったらスマホで簡単に調べられる時代になりました。でもその一方で声に出して人に聞くことに慣れていない人も多いように感じます。メールの相談はできるけど声に出して人と話して相談するのが苦手という声も聞きます。しかしあえて、私はメール相談を受け付けていません。実際に声に出して誰かに相談することで、自分の殻を破ってほしいと思っているからです。「あのね、亜美さん、今こうなんだけど」と声に出して人に聞く練習がほんの少しでもできるとその後の子育てすごく楽になると思うのです。子どもが大きくなって特に学校へ行くようになると、親だけでは解決してあげられない子どもに関する悩みも出てきます。その時にしかるべきところに相談できる親力をつけるためには人に相談したり聞いたりする練習を早いうちからやっておかないと急にはできないです。些細なことでも自分の言葉で発して相談する練習をお子さんが小さいうちから練習してほしい、その練習の場所のひとつとして助産院に来ていただきたいです。

インターネット上で調べるとなぜか不安が掻き立てられるような感覚になることがありますが、そうなる前にまず助産院に来てください。実際に会って、もしくは電話でもいいので「大丈夫だよ」と言われるととても安心できると思います。

そして、ぜひ妊婦さんのうちに一度助産院に来てほしいと思っています。今は出産ギリギリまで忙しく働いている妊婦さんが多くて、みなさん出産後に自分がどうなるかイメージができないまま出産の日を迎えてしまうようです。赤ちゃんといえば、あのスヤスヤ寝ているかわいい姿をイメージされるかと思いますが、どうして泣き止まないのか困惑する感覚までは想像が及ばないと思います。出産前に産んだあとの生活を想像できるようなお話ができれば、知らないよりもずっと赤ちゃんとの時間がしあわせに感じられるのではないでしょうか。


いかがでしたか?「助産師さん」と聞くと産む時と産んだ後にお世話になる人というイメージがある方も多かったかと思いますが、ぜひ妊婦さんのうちから一度会いに行っていただきたいです。もちろん、育児に迷ったり困ったりしたお母さんも、躊躇せずに助産師さんを訪ねていただきたい…そんな思いを込めてインタビュー後編をお送りしました。みなさんの育児のヒントになればうれしいです。

次号予告

Academic Babywearing Conference Technic 2017 Report
11/29〜11/30に大阪、12/2〜12/3に東京で開催されたベビーウェリングカンファレンスに北極しろくま堂スタッフも参加してきました!パパママ向けから指導者向けまで幅広いクラスが開かれ、海外からも講師を招いてのカンファレンスです。次号でその様子をレポートします!

編集後記

年々、秋が短くなっているように感じます。ちょっと前まで暑かったのに、急に寒くなってしまい、薄手のコートの出番がほとんどありませんでした。体調も崩しやすい時期ですので、お母さんも赤ちゃんもどうぞお気をつけくださいね。
さて、2ヶ月に渡ってお送りした助産師さんインタビューの特集はいかがだったでしょうか。今子育て中の方はもちろん、妊婦さんやこれから赤ちゃんを授かりたいと思っている方、もっと言えばすべての女性に読んでいただきたい!という思いで編集しました。子育てに関する悩みは、実際に赤ちゃんのお世話をしている現役ママさんだけでなく、見方を変えればすべての人の悩みに当てはまることだなと思いながら助産師の亜美さんのお話を聞いていました。私自身、人に相談するのが少し苦手だなとか、なんでもメールで済まそうとしてしまうなとか、自分で作ったルールにがんじがらめになっているな、など…。自分のことを客観視するよい機会になったように思います。声に出して話をするというのは、特に女性にとってはよい気分転換やストレス発散になるのでしょうね。みなさんもかかりつけの助産師さん、ぜひ見つけてみてはいかがでしょうか。
SHIROKUMA mail editor: MK②

EDITORS
Producer Masayo Sonoda
Creative Director Mai Okai
Writer Mai Katsumi, Masahiko Hirano
Copy Writer Mai Katsumi, Masahiko Hirano
Photographer Yasuko Mochizuki, Yoko Fujimoto, Keiko Kubota
Illustration 823design Hatsumi Tonegawa
Web Designer Nobue Kawashima