産後の不眠は、母親にとって大きな負担です。新生児の子育てはただでさえ大変なのに、眠ることもできないのでは、心身ともに弱ってしまいます。子育ては長く続くのですから、何とかして睡眠を確保する必要があるのです。そこで、今回は産後の不眠の原因を学び、治療法や予防法について詳しく解説します。かわいい子どものためにも、また、母親である自分自身の健康のためにも、早く不眠を解消しましょう。

  1. 不眠の基礎知識
  2. 産後の不眠について
  3. 産後の不眠のセルフチェック
  4. 産後の不眠の対処法について
  5. 産後の不眠の治療について
  6. 産後の不眠の予防法について
  7. 産後の不眠に関するよくある質問

この記事を読むことで,産後の不眠対策に必要な知識が得られ,悩みを解決するヒントがみつかるでしょう。不眠の原因が理解できれば,必ず解決策はありますよ。

不眠の基礎知識

最初に、不眠の基礎知識を学びましょう。主な原因や症状、なりやすい人のタイプを解説します。

不眠・不眠症とは?

不眠・不眠症とは、眠りたいという意思があるのにもかかわらず、眠ることができないことを言います。眠ることができても、すぐに目が覚めてしまう状態も不眠のひとつです。わたしたちは、十分な睡眠を取ることで心身の疲れをリセットしています。不眠が続くことは、健康を害する原因になり、日常生活にさまざまな悪影響をおよぼすため早めに改善しましょう。

不眠の主な原因について

わたしたちは、夜になると副交感神経の働きが強くなり、自然な眠気がやってきて数時間の睡眠を取るようになっています。ところが、昼夜逆転の生活や不規則な生活を送ったりストレス・強い刺激などがあったりすると十分に眠ることができなくなるのです。生まれたばかりの赤ちゃんは大人と違う睡眠サイクルで廻っています。大人の方はひとたび睡眠サイクルが狂ってしまうと、簡単には戻らなくなってしまいます。

不眠の主な症状を学ぼう

不眠になると,主に以下の症状が出てきます。

  • 寝付きが悪い
  • 寝てもすぐに目が覚めてしまう
  • 予定の時間より早く目覚めてしまう
  • 朝スッキリと目覚めることができない
  • 十分に寝たはずなのに疲労が残っている
  • 昼間に眠気がやってくる
  • 集中力が無くなる

また,頭痛や耳鳴りの症状,焦燥感がでてくることも報告されています(足達他, 2018)。

不眠になりやすい人とは?

以下のような人は,不眠になりやすいと考えられています。心当たりはありますか?

  • 不規則な生活リズムである
  • 夜ふかしが好き
  • 夜寝る直前までスマートフォンやパソコンを見ている
  • 大きなストレスがある
  • 神経質
  • まじめで完璧主義
  • 運動不足
  • カフェインを摂(と)り過ぎている

産後の不眠について

産後の不眠について詳しく解説します。産後の不眠独特の原因・症状・問題点など、じっくり学んでください。

産後の不眠とは?

産後の不眠は、単に物理的に寝る時間がないだけの状態ではありません。産後の体調変化・環境変化の中で、子育てという重責を意識した結果です。
産後の不眠は、出産後1年程度、子どもが自分で眠ることができるようになるまで続く人もいます。子育ての疲労と不眠が重なると、ダウンしてしまう女性も少なくありません。産後の不眠は、早めに解消する必要があるのです。(まれに男性・父親も女性の出産後に不眠になることがあるようです。)

産後の不眠の原因はなに?

産後の不眠の原因は、主に以下の2つとなります。

・女性ホルモンバランスの変化
・子育てに対する大きなストレスやプレッシャー

産後の激しい体調変化に加え、子育てのストレスが加わるのです。母親にとっては大きな負担と言えます。

産後の不眠の症状について

産後の不眠の症状は、人によってさまざまなものがあります。不眠にならない方も多いです。
不眠の方に共通しているのは「眠りたいのに十分に眠ることができなくて不満である」ということです。不眠の自覚があるのに改善できないのは、本人が最もつらいところでしょう。しかし、産後は子育てを最優先するべく、自分の睡眠を犠牲にしてしまう母親が多いため、ますます事態は深刻になっているのです。

産後の不眠の問題点や関連する病気について

産後の不眠の問題点は、疲労の蓄積だけにとどまりません。不眠による体調不良やストレスの影響で、母乳が出にくくなることもあるのです。母乳の出はリラックスすればするほど順調になるからです。
産後の不眠は、ほかにもさまざまな体調不良につながります。さらに改善しないままでいると、産後うつの原因となるので注意しましょう。いずれにしても、母親が健全な心身を維持することが子育てには必要不可欠であることは事実です。子どもためにも、産後の不眠を解消しましょう。

産後不眠のセルフチェック

産後の不眠は、簡単なセルフチェックで判断することも可能です。まずは、試してみてください。

産後不眠のセルフチェックをしてみましょう

自分が産後の不眠かどうか、以下のセルフチェックで確かめてみましょう。複数の項目に当てはまるほど、深刻な状態と言えます。

▪   授乳やおむつ替えなどで忙しく、ゆっくり眠れない
▪   眠っても疲れが取れない
▪   眠ってもすぐに目が覚めてしまう
▪   子どものことが気になって眠れない
▪   眠りたいのに目がさえてしまう
▪   少しの物音や光が気になって眠れない
▪   常にイライラしている
▪   夫や子どもにやつ当たりをしてしまう
▪   便秘がちで肌荒れがひどい

産後不眠になりやすい人やおこりやすい環境とは?

産後不眠はなりやすい人やおこりやすい環境があります。それぞれ具体的に学びましょう。

産後不眠になりやすい人のタイプ

以下の人は、産後の不眠になりやすいので気を付けましょう。まじめに育児に取り組む人ほど、産後の不眠になりやすいものです。

▪   子育てに完璧を求める
▪   神経質で几帳面(きちょうめん)な性格
▪   周りの情報に流されやすい(子育て論など)

産後の不眠になりやすい環境

産後の不眠は、以下のような環境で起こりやすくなります。すぐに解決しにくい問題であっても、現状をきちんと把握することから始めましょう。

▪   育児中でも夫が家事に完璧を求める
▪   妻がひとりで子育てをしている
▪   実家に子育ての協力を頼みにくい
▪   初めての育児である

産後不眠の対処法について

産後の不眠の対処法には,さまざまなものがあります。複数の方法を組み合わせて,不眠を解消しましょう。

こまめに横になる

産後はまとまった睡眠時間が確保しづらいものです。そこで、すき間時間をみつけてこまめに横になるようにしてみましょう。それだけでも随分楽になるはずです。 15分程度でも寝られると心身ともに負担が違います。数時間単位の睡眠をしたくても、物理的に無理なら仕方がありません。こまめに寝て、不眠解消に努めましょう。

授乳の負担を減らす

これまでの研究では,完ミや混合よりも母乳の方が母親の育児負担感が少ないことがわかっています。母乳で育てたいと思っていても、産後すぐに職場に復帰するなどで、人工乳を選択する方もいるでしょう。

母乳が出る人は工夫次第で負担を軽減できます。たとえば、助産師さんなどの専門家の指導のもとに添い乳ができるように環境を整えることも方法のひとつです。昔の育児書には添い乳をすると赤ちゃんを圧迫死させてしまう可能性があるなどと注意されているものもありますが、固めのお布団で体勢を負担のないようにすれば添い乳はそれほど危険ではありません。添い乳をしてみたい方は、ぜひ授乳に詳しい助産師さんに指導を仰いでみてくださいね。夜中の授乳がかなり楽になります。

また、こちらのラ・レーチェ・リーグのページでも夜間に安全に授乳する方法が紹介されています。具体的な内容でお勧めです。

完ミや混合の方はほ乳瓶の管理は家族に任せる、ほ乳瓶での授乳は自分以外の人が行うなども可能です。イクメンの出番ですよー。

家事や育児では適当に手を抜く

家事も育児も、完璧にこなそうとするのはやめましょう。専業主婦であっても、家の中を完璧に整えるのは難しいものです。ましてや、育児との両立はほぼ無理と考えましょう。極端な話を言えば、部屋の中が散らかっていても住んでいる人に問題が無ければいいのです。上手(じょうず)に手抜きをして、空(あ)いた時間を睡眠に当てましょう。

ストレス解消に努める

思い通りにできないとか,子育てがスケジュール通りに回らないとイライラしてしまうものです。さらに育児で不眠が続くと、ストレスは最大になってしまうことでしょう。不眠を改善するためにも、ストレス解消に努めましょう。たまには自分の好きなものをお腹(なか)いっぱい食べたり(授乳中でも甘いものはOKです。詰まりません!)、子どもを見てもらってひとりで外出したりするのもおすすめです。育児は先が長いのですから、ストレスを解消する方法を自分なりにみつけて実行しましょう。

暴飲暴食をしない

空腹過ぎても、お腹(なか)がいっぱいになり過ぎても、眠りにくくなります。バランスのいい食事を、規則正しく食べることで、自然に眠ることができるようになるでしょう。特に、夜は注意してください。寝る直前にお菓子を食べると、胃に血液が集まって眠りを妨げてしまいます。
お腹(なか)がすいて眠れないのなら、マグカップに半量程度の温めた牛乳やハーブティーを飲みましょう。お腹(なか)も気持ちも落ち着いて、安眠しやすくなります。なお、どのハーブティーにも母乳の出を促進する効果はありません。

悩み相談窓口を利用する

子育ての悩みを周囲に相談しにくいのなら、子育ての悩み相談窓口を利用するといいでしょう。専門知識に詳しいアドバイザーが、悩みを聞いてくれます。ただ話を聞いてもらうだけでも随分と気持ちが楽になるものです。たとえば、日本助産師会の全国の子育て・女性健康支援センターなどがあります。

その他の対処法

同じように産後の不眠で悩んでいる人と、悩みを打ち明け合うのもいい方法です。母親学級や産婦人科・近所などで同時期に出産した人たちと、コミュニケーションを取ってみましょう。口に出していないだけで、不眠に悩む人がたくさんいます。自分ひとりだけが悩んでいるのではないという事実と、仲間と悩みを共有できるという点で、心強く感じることでしょう。

産後の不眠対処法にかんする注意点

ひとつの方法がうまくいかなくてもあきらめる必要はありません。自分に合っていないだけです。ほかの方法で産後の不眠を解消できることもあります。焦らずに、対処していきましょう。何でもひとりで対処しようと考えず、信頼できる人に相談することも大切です。気持ちをできるだけおおらかに持ちましょう。

産後不眠の治療について

産後の不眠は、適切な治療を受けることで改善するものです。受診すべき症状・主な治療法や薬について解説します。

産後の不眠で受診すべき症状とは?

産後の不眠は産後うつを長期化させる可能性があります。以下のような症状があるときは受診しましょう。

何をやっても眠ることができない,寝てないと感じる
疲労がひどくて動けない
精神的に限界を感じる
子育てに対する気力を失った

症状の悪化を防ぐためにも、早急に治療を開始してください。

産後不眠の主な治療法

産後の不眠は、精神的なものが原因であることが多いため、カウンセリングを中心に母親の精神的なケアを進めていくことになります。心の負担や不安がなくなることで、産後の不眠が解消できることもあるのです。また、カウンセリングと並行して、睡眠薬などの投薬治療を行うこともあります。

産後不眠の治療薬について

通常の不眠治療では、医師の判断によって睡眠薬を処方することがあります。授乳中でも、薬の種類によっては飲めるものも存在しますので,医師に相談してみてください。
また漢方薬のなかには授乳中も安心して飲めるものがありますので、漢方薬局に相談してみるのもひとつの方法です。

産後の不眠の予防法について

出産後の不眠は、予防できることもあります。まずは、母親の負担を減らすことを考えてみてください。

ひとりで子育てしない

産後は、母親に子育ての負担が集中しがちです。男性の中には、子育ては母親がやるべきもの・やった方が子どものためになると信じきっている人もいます。周りの家族は「母親にしかできないこと」「誰でもできること」を分類して,母親の負担を減らす方法を考えてみましょう
自分で負担を減らすことが難しい場合は,産後ドゥーラなどのサービスを依頼することも考えましょう。民間サービスが金銭的に難しい場合は,近くの保健センターや助産院に相談しましょう。公的機関は直接あなたの負担を減らすことはできないかもしれませんが,きっとあなたの助けになります。

完全にできなくて当然だと考える

初めて子育てする人に多いのが、何もかも完全にやらなくてはと考えてしまうことです。『Nobody's a Perfect Mom(完璧な母親はいない)』(カナダのグループが始めた運動)なのです。子どもが泣き続けるのは、自分のやり方が間違っていると決めつけ、悩む人もいます。しかし、子どもが泣くのは意思表示が多様化していない段階では、当たり前のことです。

また、子育てには絶対に正解だということは存在しません。完全にできなくて当然であり、日々経験によってうまくまわせるようになるのだと考えましょう。完全主義をやめると心が軽くなり、眠れるようになります。

そのほかの予防法

育児を始めると何かと不安がつきまとうため、育児雑誌やインターネットで情報を探す人も多いことでしょう。しかし、スマートフォンやパソコンの画面から出ているブルーライトも不眠の原因となります。特に、夜間はスマートフォンやパソコンの画面を見る回数や時間を減らしましょう。また,情報がありすぎるとよけいに不安感が強くなるという研究結果があります(荒牧・無藤, 2008)。イライラしだしたらデジタルデトックスをしてみるのも手です。

ゆっくりと入浴することも不眠の予防になります。子どもが小さいうちは、母親だけで入浴しづらいでしょう。しかし、せめて入浴している間はパパに子どもを任せて、自分の時間を楽しみながらくつろぎましょう。

産後の不眠にかんするよくある質問

最後に、産後の不眠にかんするよくある質問に回答します。ほかの皆さんが悩んでいる内容も参考にしてください。

数十分の睡眠では意味がないのでは?

産後の不眠は、想像以上に母親の心身に負担がかかります。たとえ数十分の睡眠でも、随分と楽になるものです。もちろん、長時間ぐっすり眠ることに越したことはありません。しかし、不眠の解消のためには、まず短時間でも眠ることができたという事実が大切なのです。意味がないと考えず、すき間時間があったら優先的に眠るようにしてください。

もともと不眠症だったので、産後のせいかよくわからない

不眠で悩んでいた人がそのまま妊娠・出産を経験すると、産後の不眠かどうか区別が付かないことがあります。しかし、いずれにしても不眠であることに違いはありません。適切な睡眠を取るためには、きちんと治療することが大切です。不眠に向き合ういい機会と考えて、改善していきましょう。

産後の不眠は自然に治るものではないのですか?

確かに、子育てが一段落するころには、不眠に悩む人は少なくなります。しかし、中には治療を受けることなくがまんし続けた結果、産後うつを発症してしまう人もいるのです。産後の不眠にかんしては、自然に治ることがあっても、きちんと治療を受けた方が早く楽になることに変わりありません。

睡眠時間が少なくても本人に支障がなければいいのでは?

確かに、産後の不眠に無自覚な人もいます。周囲から見れば明らかに睡眠不足であっても、本人にしてみればまったく支障がないという例ですね。本人の気力・体力が満ちているからとも言えます。ただし、睡眠時間が短いことは長い目で見てプラスになるとは考えにくいことです。いきなり体調を崩してしまう人もいるので油断せず、適切な睡眠を取るように心がけてください。

産後のストレス解消法としておすすめの方法は?

産後のストレスは、適度に解消することが大切です。子育て中であることを考えると、体に負担がかかりにくく、健康的な方法を選ぶといいでしょう。たとえば、1時間でもカラオケで好きな歌を歌う、友達と会って好きなだけおしゃべりをする、などの方法があります。楽しい時間を過ごすことで、育児ストレスを上手(じょうず)に解消してください。

まとめ

今回は、産後の不眠を詳しく解説しました。産後は特に母体に大きな負担がかかりやすいため、十分な睡眠が必要不可欠と言えます。しかし、さまざまな理由によって産後の不眠に悩む人がいるのも事実です。せっかく子どもを授かったにもかかわらず、不眠になると体がもちません。まずは、できるだけ快眠できるように現状を見直すことから始めましょう。産後独特の心身の変化を知って、適切な対応をしてください。また、子育ては母親ひとりで行うものではありません。父親やそのほかの家族にも協力をしてもらいましょう。病院に行くこともひとつの方法です。ひどい不眠や心配な症状が出ている場合は、速やかにかかりつけ医に相談しましょう。

参考
足達淑子, 澤律子, 上田真寿美, and 島井哲志, 産後1か月の褥婦における睡眠と主観的精神健康感との関連, 日本公衆衛生雑誌 65, 646 (2018).詳細はこちら

荒牧美佐子 and 無藤隆, 育児への負担感・不安感・肯定感とその関連要因の違い : 未就学児を持つ母親を対象に, 発達心理学研究 19, 87 (2008).詳細はこちら